AKB48まとめんばー

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    05s2



    413 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:16:57.97 ID:G6QBJFYg0
    自由時間――。

    大家「あれ?放送かからないなぁ…」

    自由時間となり、格子扉が自動で開いた。
    いつもならこの時点で、懲罰房行きとなる囚人の名が発表される。
    しかし今日は、一向にその気配がない。

    前田亜「今日はみんなあれだけ騒いじゃったから、1人に絞れないんじゃないですか?」

    亜美が寝ぼけた顔でそう答える。
    結局夕食の時間を過ぎるまで眠りこんでいたので、亜美はなんとなく体がだるかった。

    前田亜「あたしお風呂行ってきまーす」

    頭をすっきりさせるため、亜美はいつもより早く入浴に向かった。
    ひとり監房に残された大家は、考えに耽っている。

    ――そんなはずない…。だって、看守は簡単に懲罰房行きになる囚人を決められるはずだから…。

    その時、モップとバケツを持った永尾と入山が監房の前に現れた。

    415 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:20:19.21 ID:G6QBJFYg0
    大家「え?掃除?」

    大家が話しかけると、永尾と入山は姿勢を正した。

    永尾「はい」

    入山「今日は通路全部モップがけするんです」

    大家は順番に2人の顔を見ると、ついに決心を固めた。

    ――この決断が、みんなのためになるなら…。

    ずっと考えていた。
    どうにかしてこの監禁生活を終わらせる手はないだろうかと。
    1人の囚人が5回懲罰房に入らないと、解放されることはない。
    だったら、その囚人に、自分が名乗りをあげることは出来ないだろうか。
    自分だったら、きっと連続で懲罰房に入れられても、耐え切ってみせる。
    長い研究生時代を過ごしたのだ。
    根性だけなら誰にも負けない。
    しかし、看守には看守の考えがあるらしく、なかなか自分は懲罰房行きに指名されない。
    大家は看守がどのように話し合いをしているのか不思議だった。

    大家「あのさ、ちょっと頼みがあるけん…」

    永尾「はい?なんですか?」

    大家「うちを、懲罰房に入れて欲しいんよ」

    416 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 14:20:28.86 ID:FQ1tIe1X0
    気になる…

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    417 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:23:38.45 ID:G6QBJFYg0
    入山「え?大家さんを…ですか?」

    永尾「そんな…無理です。あたし達に決定権はありませんし」

    大家「でもまだ今日の懲罰房行きは決まってないんやろ?だったら今からうちを指名して…」

    入山「でも…」

    大家「うち、もう全部知ってるけん、大丈夫や。看守だって、毎回誰を懲罰房に入れるか、話し合いするのが辛いんやろ?」

    永尾「……」

    永尾は無言でこくりと頷いた。

    大家は先ほど、ICレコーダーに録音された音声を聞いた。
    そこには看守がどのようにして懲罰行きになる囚人を決めているのかがわかる会話が録音されていた。

    大家「1人に絞れない…話し合いをするのが辛い…だから…くじ引きなんかしてるんやろ?」

    418 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:24:56.59 ID:G6QBJFYg0
    入山「え?大家さんなんでそれを…」

    大家「聞いたんよ。看守の部屋の音声を。看守は話し合いなんかしてない。くじ引きで懲罰房行きの囚人を決めてるだけなんやろ」

    永尾「だって…どうしても話し合いでなんか決められなかったんです…」

    大家「だけどそんなことしてたら、いつまでたってもこの生活は終わらんけん。うち、もう覚悟はできとるんよ。うちが5回連続で懲罰房に入る。そうしたらもうこんな監禁生活からみんな解放されるけん」

    入山「そ、そんな…5回連続って…危ないですよ」

    大家「ここから解放されるには、どっちみち誰かが5回懲罰房に入らなきゃいけん。うち、みんなをそんな辛い目に遭わせたくないんよ。な?もう終わりにしよ?うちが懲罰房に入る。それですべて解決するやろ」

    永尾「……」

    永尾は大家の提案にどう答えていいかわからず、入山を見た。
    入山は、伏せていた視線をきりりと上げる。
    印象的な大きな瞳が、決意に満ちて輝いた。

    入山「大家さんの気持ちはわかりました。わたし…やっぱりこんな生活からメンバーの皆さんを早く解放してあげたい。だから、大家さんの意見に賛成です」

    大家「ありがとう。それなら…」

    419 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:25:44.01 ID:G6QBJFYg0
    入山「はい。でもわたし達だけで決められることじゃないので、1度看守の部屋に戻って相談してみます。待っててください」

    大家「うん」

    大家もまた、強い目力で入山を見つめ返す。
    それを見て、迷っていた永尾もついに心を決めた。

    永尾「それじゃあ早く戻らなきゃ」

    入山の服の袖を引っ張る。

    入山「じゃあ大家さん、また後で」

    去っていく入山と永尾の後ろ姿を見つめながら、大家はぎゅっと拳を握った。

    ――良かった…これでみんな助かるんだ…。

    懲罰房に入るのが怖くないといえば嘘になる。
    だけど、メンバーが無事に解放される日が具体的になった嬉しさのほうが、大家の中では勝っていた。
    仲間のためなら、自分自身が犠牲になることを厭わない。
    大家はこれまで、そうやってアイドルを続けてきたのだった。

    420 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:28:23.72 ID:G6QBJFYg0
    一方その頃、島田達は――。

    島田「いよいよだよ。準備はいい?」

    島田は市川と島崎の顔を交互に見つめ、最後の確認をした。

    市川「はいっ!」

    市川が大きく頷く。
    しかし島崎は、おどおどと足元を見つめるばかりだ。

    島田「…ぱるる?」

    島崎「あ、ううんごめんね。でもちょっと…やっぱり脱獄なんてしたら、残ったメンバーに迷惑がかかると思う…」

    島田から脱獄の計画を聞いたのは、ほんの数分前のことだった。
    島崎の中では、まだ迷いが解消されていない。

    島田「だけど、このままここにいたらぱるるが5回懲罰房に入れられる危険だってあるんだよ?」

    島崎「……」

    言葉を詰まらせた島崎を見て、島田は強引にその腕を引いた。
    よほど嫌なことでない限り、島崎ははっきりと物事を否定したりはしない。
    黙りこんだということは、返事はほとんどイエスに近いのだ。
    島田は島崎が脱獄に反対しているわけでないと判断して、先へ促した。

    421 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:29:29.11 ID:G6QBJFYg0
    島田「さ、行ってぱるる」

    島崎「う、うん…」

    思ったとおり、島崎は島田の強引な誘いに引きずられるまま、行動を開始した。
    さきほど説明されたとおり、ベッドから毛布を持ってくると、それを胸の前で抱えて監房を出る。
    目指すは――トイレだ。

    市川「あ、でももすぃ誰かにこの姿を見られて、何か訊かれたりすぃたら、どう答えるの?」

    市川の手にも、折りたたまれた毛布が握られていた。
    自分の監房から持ってきたのだ。

    島田「あたしの部屋でみんなで仮眠を取るって言えばいいよ」

    市川「はーい」

    島田もまた、手には毛布を持っている。

    島崎「菊地さんには何て言って出て来たの?」

    島田「菊地さん寝てたから、そのまま黙って出て来ちゃった」

    市川「目が覚めてはるぅがいなかったら、菊地さんびっくりすぃちゃいますね」

    市川はなぜかにこにことそう言った。
    ここから出られることが嬉しくて、つい顔に出てしまうのだろう。

    422 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:33:00.00 ID:58HWYykmO
    島崎「本当に…トイレから脱獄できるの?」

    市川とは対照的に、島崎は不安顔で尋ねた。

    島田「大丈夫だよ。トイレには監視もないだろうし」

    島田は自信満々にそう答えた。
    みんなの監房の前を横切って、こそこそとトイレへと向かう。
    案外誰も、通路を歩く自分達のことを気にしてはいなさそうだ。
    ほっと安心しかけた時、寝ぼけた声に呼び止められた。

    菊地「あれー?3人してどこ行くの?」

    振り返ると、仮眠から目覚めたばかりの菊地が、第2監房の前に立っている。
    目指すべき場所は第1監房を過ぎたところにある。

    ――あとちょっとなのに…。こんなところで足止めなんて…。

    島田の肩が、緊張で固まる。

    423 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:35:03.19 ID:58HWYykmO
    島田「あ、あの、ぱるるの監房でみんなで仮眠を取ろうかなーと」

    菊地「あ?そうなの?だから毛布持ってるんだ」

    島田「はい、そうなんです。ね?」

    島田が同意を求めるように2人を見ると、市川と島崎はそろって首を振った。

    市川「はいー」

    菊地「でもなんでトイレのほうに行くの?ぱるるちゃんの監房だと、反対方向でしょ?」

    島田「えっ!!」

    島田はそこで、菊地の何気ない問いに目を丸くした。

    ――菊地さん、無意識だと思うけどかなり邪魔だな…。

    市川は不安そうに菊地の顔とトイレの方向とを見比べ、眉を下げた。
    島崎は無表情ながら、足ががくがくと震えている。

    424 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:37:06.64 ID:58HWYykmO
    菊地「ねー?なんでー?」

    島田「あ、あ、あのっ、寝る前にトイレを済ませておこうと…」

    菊地「あ、そうなんだ!トイレ臭うから気をつけてね」

    島田「はい」

    島田はぺこりと頭を下げると、市川と島崎を促した。
    3人はそそくさとその場を後にする。
    その時、背中からまたしても予期せぬ言葉がかけられた。

    菊地「あ、仮眠取るならあたしも一緒に寝ていいー?」

    425 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:39:08.76 ID:58HWYykmO
    島田「はい?」

    振り返ると、菊地はすっきりとした美しい笑顔で、島田達のほうを見つめている。
    何か企んでいるようではなさそうだが、邪魔なことに間違いはない。

    島田「あ、でもえーっと…」

    島田は言葉を探して、視線を泳がせた。

    菊地「ん?」

    島田「あ、そうそう!菊地さん、ごはん食べてから今までずっと寝てたじゃないですか!まだ寝られるんですか?」

    菊地「あ、そうだったねぇ」

    市川「寝すぎはよくないですよぉ」

    島田「うんうん。夜寝る分なくなっちゃいますよ。ね?ぱるる?」

    島崎「うん…」

    426 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:41:02.67 ID:58HWYykmO
    菊地「あ~それもそうだね。じゃあやめとこうかな」

    島田「うん、それがいいと思います。じゃああたし達、急ぐんで」

    島田はそうして話を切り上げると、市川と島崎の腕を引っ張った。

    島田「行こう」

    市川「はいー」

    慌てた様子で去っていく3人の姿は、かなり怪しいものであった。
    しかしそれを見ても菊地は、まさかこれから脱獄が行われようとしていることなど気付きもせず、むしろ3人の腹の調子を心配している。

    ――あんなに慌てて…きっと3人とも大きいほうなんだな…。

    菊地はそう納得すると、ぺたりと床の上に座った。
    大きなあくびを1つすると、もう頭の中からは島田達の不審な動きはきれいさっぱり忘れ去られている。

    427 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:44:42.47 ID:58HWYykmO
    一方その頃、看守の部屋では――。

    宮崎「わーい勝ったどー」

    宮崎は勝利の喜びに思わずコントローラーを放り投げ、小躍りをはじめた。
    近くに居た倉持がすかさずそのコントローラーを拾い上げ、元の場所に戻してやる。

    野中「……」

    野中はまたしてもテニスゲームに敗北し、肩を落とした。

    野中「こんなにやってるのに…なんで勝てないの…」

    その時、離れたところからその様子を見ていた前田が、気まぐれに口を挟んだ。

    前田「教えてもらえばいいじゃん。元テニス部だった人に」

    野中「テニス部…ですか…」

    ――そうか、その手があったか…。

    前田の言葉に、野中は希望を見出す。
    テニス部であれば、ボールを打つ微妙なタイミングや、試合の戦略など教えてくれるかもしれない。

    ――だけど、元テニス部って誰だろう…?

    429 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:48:18.87 ID:58HWYykmO
    野中が頭を悩ませていると、見透かしたように前田が再び口を開く。

    前田「ゆきりそテニス部だったよねー?」

    瞬間、柏木が大げさな手振りをしながら立ち上がった。

    柏木「ちょいちょいちょい…だからあたしテニス部じゃないって…」

    前田「あ、そうだったけ?」

    柏木「うん」

    前田「じゃあ誰だっけー?」

    前田が考えるように視線を上げる。
    野中はそこで、ふと思い出した。

    野中「あきちゃだ…」

    前田「あ、そうそう!そうだった!」

    野中の言葉に、前田が激しく首を振る。

    前田「やっと思い出したー。すっきりしたー」

    野中はちょっと困ったように前田を見ると、誰に言うでもなく口を開いた。

    野中「じゃああたしちょっと、教えてもらいに行ってこよう」

    すると倉持がスッと動き、野中を呼び止めた。

    430 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 14:50:07.57 ID:Aq95X6WU0
    島田もテニス部だ

    やばいよ~

    431 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:51:10.28 ID:G6QBJFYg0
    倉持「待って。あきちゃは確かにテニスの実力あるみたいだけど、たぶん感覚的な部分が多いから言葉で説明するのは下手かも」

    野中「あ…」

    野中も思い当たるところがあるようで、表情を曇らせた。
    高城からの教えを受けたら、頭が混乱して逆に今より下手になりそうな気がする。

    倉持「あきちゃいい子なんだけどね、天然だから…」

    野中「うん…」

    野中は諦めて、浮かせた腰を再び下ろした。
    その時、前田の隣に座っていた篠田が、口を挟む。

    篠田「テニス部っていうなら、しまごんもそうじゃない?」

    野中「え?」

    篠田「ほら、前にネ申であきちゃとテニス対決してたよね?」

    篠田の言葉に、野中も思い出した。
    島田も確かに元テ二ス部の人間だ。
    それに、高城よりもしっかりしたイメージがある。
    なんとなく、人に物を教えるのが上手そうな子だ。

    野中「じゃあ…しまごんに訊けば…」

    篠田「うん。ゲームで勝つコツ教えてくれるかもね」

    432 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:52:03.32 ID:G6QBJFYg0
    野中「あ、じゃあわたし、今から訊いてきます!」

    野中はそう言うが早いか、看守の部屋を飛び出した。

    前田「麻里子、詳しいねぇ」

    野中が出て行った後、前田は尊敬の眼差しで篠田を見た。
    お互い忙しい身であることは同じだが、前田は篠田のように後輩に気を配る余裕がない。
    そういうこともあるせいか、後輩達からなんとなく距離を置かれている気がして、寂しい思いをすることも多い。

    篠田「うん」

    篠田はそれを誇ることなく、当然といった表情で短く返事をする。
    一度ふざけだすと完全にお子様化してしまう篠田だが、ふとした時に見せる大人らしい落ち着きぶりに、前田はいつも安心させられるのだった。

    433 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 14:52:07.91 ID:FQ1tIe1X0
    やべえぞ島田ぁ!!

    434 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:52:48.00 ID:G6QBJFYg0
    一方その頃、島田達は――。

    島田「この窓から、外へ出る」

    島田はトイレの窓を指差すと、そう宣言した。

    市川「でもわたすぃ、この窓だと高すぎて届かない」

    市川は困り顔で島田を見上げた。

    島崎「わたしも…」

    島崎もまた、困り果てた顔で窓を見上げている。

    島崎「それに窓の鍵は開かないようになってるよ?」

    島田「大丈夫。あたしが割るから」

    市川「へぇ?わ、割るって…」

    島田「見たところ、そんなに厚い窓じゃないし。脱走防止のため高い位置に設置してあるんだろうけど、そこが逆に油断を招いたんだね。窓さえ割ってしまえば、簡単に外へ出られる」

    市川「この毛布は何に使うの?」

    市川は、手にした毛布を不思議そうに見つめた。

    435 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:53:40.35 ID:G6QBJFYg0
    島田「窓を割っただけだと、外へ出る時に破片で怪我するでしょ。あたしが割ったら、その後に窓枠に沿って毛布を引いて、安全を確保する」

    島崎「すごいねはるぅ、そこまで考えてたんだ」

    島田「まあね」

    島崎に褒められ、島田はつんと鼻先を上へ向けた。
    それから照れ臭そうに笑顔を浮かべる。

    市川「でもはるぅはこの窓に手が届くの?」

    島田「うん。悪いけど、2人はあたしを抱え上げてくれないかな?そうしたら手が届くから、一気に割って脱走しよう」

    市川「は、はるぅを…?あたすぃとぱるるで抱え上げる?」

    市川は島田の案を聞き、声を上擦らせた。

    島田「何よみおりん、文句あんの?」

    心外だとばかりに、島田は市川をひと睨みする。

    島田「別にちょっとくらい、平気でしょ?」

    市川「は、はい…」

    436 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 14:54:37.11 ID:G6QBJFYg0
    市川と島崎は、それから苦労して島田を抱え上げた。
    すると島田は手を伸ばし、思いっきり窓を殴る。
    思ったとおり、窓を簡単に割れた。
    外から新鮮な空気が流れ込んでくる。
    外の気配。外の匂い。
    それだけで、島田は不覚にも涙ぐんだ。
    しかし、ここで泣いているわけにはいかない。
    本番はこれからなのだ。

    島田「ありがと。じゃあぱるる、あたしが踏み台になるから行って」

    島田は急いで、割れた窓を毛布でガードすると、島崎を指名した。

    島崎「え?でもわたし…。はるぅが先に行ってよ」

    島田「ううん、あたしがこの中で1番体重あるだろうから、先に小柄な2人が行ったほうがいいと思う。だけどみおりんは小さすぎるし…。だから先にぱるるが出て、外からみおりんを受け止めてあげてほしいんだ」

    市川「お願いします」

    島崎「わ、わかったよ…」

    島崎は1番手というプレッシャーを感じながら、渋々頷いた。

    437 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 14:58:22.02 ID:58HWYykmO
    一方その頃、野中は――。

    野中「晴香ちゃーん?あれ?」

    島田がいるはずの第2監房に来た野中は、菊地の顔を見てぽかんとした表情を浮かべた。

    野中「なんで床で寝てるの?ベッドがあるのに」

    菊地「あぁ、なんとなく。床の上のほうが落ち着くから」

    野中「そ、そうなんだぁ…へぇ…」

    野中は菊地の意味不明の行動にたじたじになりがら、本来の目的を思い出した。

    野中「あ、そうだ。晴香ちゃんどこ行ったか知らない?」

    菊地「あぁ、さっきトイレ行くって言ってたけど…」

    野中「そう。ありがとう」

    野中は菊地に礼を述べると、第2監房を後にした。
    少し迷ったけれど、囚人用のトイレに行ってみることにする。

    438 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:00:13.44 ID:58HWYykmO
    一方その頃、島田達は――。

    島田「早く、ぱるる」

    島田はしゃがみこみ、島崎へと声をかけた。

    島崎「う、うん…」

    島崎は恐々島田の背に足を乗せる。
    すると、あんなに高かった窓枠に、手をかけることができた。
    このまま腕の力を使い、身を乗り出すようにして外へ出ればいい。

    島崎「?あ、あれ?」

    しかし、元々筋力もなく、運動神経も鈍い島崎だ。
    窓枠に手をかけたまではいいが、そこから先が進めない。

    439 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:02:09.34 ID:58HWYykmO
    市川「急がないと誰かに見つかっちゃうよ」

    市川がトイレの入り口のほうを気にしながら、島崎を急かす。

    島崎「ご、ごめんね…えいっ、えいっ!」

    焦りで手が震える。
    島崎は窓枠にぶら下がるのが精一杯の様子だ。

    島田「早くしてぱるる!」

    島崎の足の下で、島田が苦しそうな声を洩らす。
    いくら軽量の島崎でも、長い間背中に乗られていてはたまらない。

    島崎「ごめんね…ごめんね…」

    島崎は何度も謝りながら、なんとか窓を通り抜けようと、懸命に体をよじらせた。

    441 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:04:18.23 ID:dfoewigg0
    急げ島田あああぁぁぁ!

    440 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:04:10.77 ID:G6QBJFYg0
    一方その頃、看守の部屋では――。

    入山「…てことなんです」

    入山は大家の提案をみんなに話して聞かせた。
    看守の部屋が水を打ったように静まり返る。

    永尾「……」

    永尾は不安げに先輩達の顔を見回した。

    前田「でも…さすがにしいちゃんでも5回連続は…ねぇ?」

    前田がしかめ面で、峯岸に同意を求める。

    峯岸「うん…」

    峯岸は決めかねたように、短く返事をした。

    前田「麻里子はどう思う?」

    前田は今度、篠田に話を振った。
    篠田は入山が話を切り出した時から、難しい顔で黙り込んでいる。

    篠田「……え?」

    前田「ほら、しいちゃんのこと…」

    篠田「う、うん…。でも、それより気になることがあるんだけど…」

    442 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:05:04.86 ID:G6QBJFYg0
    峯岸「気になること?」

    篠田「うん。しいちゃんは看守の会話の録音を聞いて、自分が懲罰房に5回連続で入ると提案して来たんでしょ?」

    篠田は真っ直ぐに入山を見た。
    篠田に見つめられ、入山は緊張の面持ちで頷く。

    入山「は、はい…」

    篠田「じゃあそもそも誰がそんな録音したんだろう?これって看守の中に盗聴を働いた人がいるってことでしょ?」

    前田「あ、そういえばそうだねぇ」

    篠田「別に囚人の味方しちゃいけないってわけじゃないけど、話し合いについては外部に洩らさないようにするっていうルールじゃん」

    峯岸「うん。もし洩れたら、ルール違反でその子が罰を受けることに…ううん、録音された会話をしていた人物も一緒に罰の対象になるかも」

    藤江「え…やだ…」

    藤江は驚愕し、手で口元を押さえた。
    それから、自分が昨日、話し合いについて誰かと何か話したりしなかったかどうか記憶を辿る。
    大丈夫だ、自分は昨日そのことに関しては誰とも何も話していない。

    443 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:06:17.25 ID:G6QBJFYg0
    篠田「やだよもう、看守の中から懲罰房に入れられる人が出てくるなんて」

    篠田がそう言うと、倉持は気まずそうに顔を伏せた。
    あの時は、みんなにたくさんの心配をかけてしまった。
    1人の軽はずみな行動で、看守全体が不安になるのだ。
    倉持はそのことを身を持って知ったのだった。

    ――だけど、誰だろう…。看守の会話を盗聴した人って…。

    倉持は気になって、密かに看守達の顔色を観察する。

    倉持「?」

    部屋の隅で、梅田がうつむき、震えていた。
    元々白い顔を、さらに白くしている。

    ――顔面蒼白…。きっとあんな状態のことを言うのね。

    倉持はなぜか冷静にそんなことを考え、あえて梅田の様子がおかしいことには触れなかった。

    444 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:07:07.04 ID:60kgOQ3yO
    梅ちゃん・・・

    445 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:07:21.94 ID:G6QBJFYg0
    篠田「でも犯人探しは良くないよね」

    篠田は今度、さばさばとした口調でそう言うと、暗い雰囲気を和ませる笑顔を浮かべた。

    篠田「誰でもそういう間違いはするし、責めたってもう遅いし、うーん…忘れよう忘れよう」

    前田「また麻里子、いい加減だなぁ」

    前田が篠田の肩を軽く叩く。
    これでもう、話は終わったかと思われた。
    しかし、和やかなムードになった看守の部屋の中で、1人の硬い声が響いた。

    梅田「ちょっと待って!」

    柏木「え?」

    柏木は声のしたほうに頭を向けた。
    梅田が肩を硬直させながら、立っている。

    峯岸「梅ちゃん、どうしたの?」

    峯岸が不思議そうに首をかしげた。

    梅田「看守の会話を録音したのは…あたしなの」

    446 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:08:35.33 ID:G6QBJFYg0
    前田「…え?」

    梅田「ごめん、まさかこんなことになるなんて思わなくて…」

    前田「……」

    峯岸「何で?誰に頼まれたの?」

    峯岸は急に厳しい声になり、無表情に梅田を見つめた。
    どちらかというと可愛らしい顔つきをしている分、真顔になった時の峯岸には少々怖いものがある。

    梅田「…それは…言えない」

    峯岸「何で?」

    梅田「約束だから。でも、悪いのはあたしなの。あたし…あたし…懲罰房に入るよ」

    篠田「そんな…梅ちゃんわかってるの?懲罰房がどんなところか…」

    梅田「うん。でもいい。ちゃんとルールを破った罰は受ける。だからもう、このことはこれで終わりにして。これ以上何も訊かないで」

    梅田はそう言って、懇願するようにぎゅっと目を閉じた。
    その様子に、看守達は顔を見合わせて黙り込む。
    沈黙を破ったのは、篠田だった。

    447 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:09:37.93 ID:G6QBJFYg0
    篠田「…わかった…。出来るなら梅ちゃんを懲罰房になんか入れたくないけど」

    前田「麻里子…」

    中田「そんな…自分から名乗り出たんだし、もうこれでチャラじゃないですか?」

    片山「正直に告白した分、罰を軽減することは出来ないの?」

    梅田「いいの。あたしはちゃんと罰を受ける。あたしを、懲罰房へ入れて…」

    峯岸「……」

    藤江「やだよ梅ちゃん、行かないで」

    梅田「……」

    篠田「れいにゃん、梅ちゃんが自分で決めたことなんだよ。梅ちゃんは懲罰房に入ることで、けじめをつけようとしている。だからここは、おとなしく見守ってあげよう?」

    篠田は藤江を優しく諭すと、梅田を真っ直ぐに見つめた。

    篠田「本当にいいんだね?梅ちゃん…」

    篠田の問いかけに、梅田は無言の頷きを返した。

    448 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:10:42.03 ID:G6QBJFYg0
    一方その頃、野中は――。

    看守の部屋で何が話し合われているか知らない野中はひとり、囚人用のトイレの前まで来ていた。

    野中「……」

    ドアを開けようとしたとき、横から誰かに腕を掴まれる。

    野中「ひいっ…」

    野中は咄嗟にドアの前から飛びのいた。

    仲川「あははー、びっくりした?」

    そこにいたのは、仲川だ。

    仲川「ねぇねぇ美郷ちゃん?何やってるのー?」

    仲川はいつものように人懐こく話しかけてくる。
    さっきは急なことで驚いたけれど、仲川の笑顔はどこか人を安心させる雰囲気を持っていた。
    仲川につられて、野中の頬が緩む。

    野中「晴香ちゃんを探してるんだよ」

    449 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:11:40.61 ID:dfoewigg0
    やべぇぞ島田

    450 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:12:04.25 ID:G6QBJFYg0
    仲川「えー?はるごんも遥香ちゃんだよ」

    野中「違う違う。島田晴香ちゃん」

    仲川「何で探してるのー?トイレの中にいるの?」

    野中「うん、そうみたい」

    野中は再び、ドアノブに手をかけた。
    しかし仲川はその腕を取ると、左右にぶんぶんと振り回しながらおねだりをする。

    仲川「ねぇねぇ美郷ちゃーん、そんなことよりはるごんと遊ぼうよー」

    仲川に腕を取られ、野中はまるで、親戚の子供に振り回されているような気分になってきた。

    野中「え?いいけど…ちょっと待って」

    仲川「はるごん鬼ごっこがいい!あ、でも2人しかいないから鬼ごっこにならないねー。もっと人数多いほうが面白いよね!あはは」

    野中「ねぇちょっと、あたしの話聞いてよぉ…」

    仲川のテンションの高さに、野中は困り果てた。
    正直なところ、仲川の誘う遊びに乗るには、野中は疲れていた。
    出来るならなるべく走ったり跳んだりするような遊びは避けたい。
    しかし、仲川にそれは酷というものだろう。
    とにかく時間があれば走り回っていたい人なのだ。

    451 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:14:37.94 ID:G6QBJFYg0
    野中「じゃあさ、晴香ちゃんと鬼ごっこしなよ。わたし呼んできてあげるから」

    野中はそう言うと、さり気なく仲川の腕をほどいた。

    仲川「えー?じゃあいいよ…。はるごん、有華のとこ戻る…」

    すると仲川はしゅんとした顔で、野中のもとから離れて行った。

    ――ちょっとかわいそうなことしちゃったかな…。

    少し心が痛んだが、本来の目的を忘れてはいけない。
    野中は改めて、ドアノブに手をかけると、トイレの中へと一歩足を踏み入れた。
    その姿を、仲川が隠れたところから窺っていることに、野中は気付いていない。

    452 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:16:16.24 ID:G6QBJFYg0
    トイレの中――。

    島田「早くぱるる!」

    島田はほとんど怒りに近い口調で、島崎を急かした。
    島崎は相変わらず、窓枠にぶら下がったまま、まごまごしている。

    野中「何…やってるの…?」

    トイレの中に入った野中は、島田達の姿を見て、思わず声を洩らした。
    脱獄しようとしていることは明らかだ。
    窓は割られているし、毛布まで用意している。

    野中「どうしてこんな…」

    野中の姿を、島田は信じられないものでも見るかのように凝視した。

    島田「野中さん…どうしてここに…」

    思わず体勢を崩した島田のせいで、島崎は窓枠から手を滑らせ、したたか腰を打った。

    島崎「痛い…」

    市川「ぱるる大丈夫ー?」

    市川が慌てて駆け寄る。
    一方島田は、立ち上がり、ちょうど野中と対峙する格好となった。
    野中が尋ねる。

    野中「脱獄…しようとしてるよね?」

    453 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:18:45.71 ID:dfoewigg0
    あーぁ…

    454 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:19:25.76 ID:1vOggi0C0
    日付的にまだ半分も来てないのか・・・

    455 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:19:39.03 ID:58HWYykmO
    島田「はい…」

    野中「どうして?バレたら、看守はみんな低周波だよ?こんな窓まで割って…」

    島田「ごめんなさい」

    島田は素直に頭を下げた。

    島田「でも、このこと見逃してくれませんか?もう少しなんです。外に出たら、絶対に助けを呼んできます」

    島田の毅然とした物言いに、野中はたじろいた。

    島田「お願いします。野中さん」

    市川「お願いします」

    市川もまた、小さな頭を下げる。
    島崎はまだ打ちつけた腰が痛むのか、しきりに擦っていた。

    456 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:19:52.93 ID:FQ1tIe1X0
    ばれたんか…

    458 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:25:33.54 ID:58HWYykmO
    野中「そんな…お願いされても…」

    野中の心が揺れる。
    後輩達の真っ直ぐな視線が、頼もしかった。

    ――この3人なら、本当に外に出て助けを呼んで来てくれるかもしれない…。

    しかし、看守としての立場も忘れてはいなかった。

    ――だからといって3人を見逃して、もし脱獄が他の人にバレたら…。

    野中はちらりと割られた窓を一瞥した。
    遅かれ早かれ、窓が割られていることは絶対に気付かれる。
    そうしたら脱獄したこの3人を監房に戻すまで、看守の低周波は止まらない。

    ――そんなのやだ。あたしだけ我慢するならいいけど、看守の子全員が低周波の犠牲になるなんて申し訳なくて…。

    459 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:28:10.03 ID:58HWYykmO
    野中「本当に…脱獄するの…?」

    野中は3人をぐるりと見回す。

    島田「はい。絶対に助けを呼んできます」

    島田は野中から一切視線を逸らすことなくそう断言した。

    野中「…わかった」

    その瞬間、野中の心が決まった。

    島田「野中さん…!ありが、」

    島田が目を輝かせ、礼を述べようとした時、野中が大声を発した。

    野中「脱獄者です!トイレにいまーす!早く…早く誰か来てー!」

    460 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:31:47.84 ID:58HWYykmO
    島田「野中さん…」

    島田の表情が、絶望のそれに変化した。

    市川「そんな…ひどいです…!」

    市川が目に涙を溜め、抗議の視線を野中へと送る。

    野中「ごめんね。助けを呼んで来てくれるのはうれしいけど、やっぱりわたしはこうするしかなかったの…」

    野中もまた、泣き出す一歩手前という表情で弁解した。

    島崎「……」

    バタバタと看守達の走ってくる足音が近づいてくる。
    野中の声はちゃんと届いたようだ。

    峯岸「どういうこと?これ…!」

    真っ先に入って来た峯岸が、割られた窓を見て言葉を失った。

    461 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:32:53.02 ID:G6QBJFYg0
    前田「ここから出ようとしたの?」

    大場「ちょっ、何やってんのよあんた達…」

    次々とやって来る看守達。
    中まで入ってこられず、通路にあぶれた看守達が、状況を把握しようと好き勝手に喋り始めた。

    近野「何?誰?誰が脱獄しようとしたの?」

    平嶋「レモンちゃんとぱるるとしまごんだよ」

    佐藤夏「嘘?3人も?」

    阿部「何で脱獄しようとしたんですか?失敗したんですか?」

    阿部が率直な疑問を口にしたその時、ついに低周波が流された。
    看守達は身を縮め、低周波の痛みに苦しみはじめる。

    野中「早く…監房に戻って…」

    野中は3人に懇願した。

    462 : ◆66aW1ESWJs :2012/02/28(火) 15:37:05.52 ID:58HWYykmO
    島田「嫌です。このままおとなしく監禁されてるなんて馬鹿みたいですよ。皆さん目を覚ましてください。自分達を監禁している奴の言いなりなっていいんですか?」

    野中「いいから…早く…監房に…」

    野中は島田の腕を引っ張ろうと手を伸ばした。
    しかし、低周波のせいか、手にうまく力が入らない。

    野中「…お願い…このままだとあたし達…」

    野中が崩れ落ちる。
    島田達はその場から動こうとしない。

    島田「今のうちに外へ出よう。看守が動けないでいるうちに」

    島田は再びしゃがみこみ、島崎を行かせようとする。
    その時、誰かが島田の腕を取った。

    島田「……」

    463 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:39:16.06 ID:58HWYykmO
    篠田「戻ろう。監房に…」

    篠田が、泣きそうな顔で島田を見る。
    低周波が苦しいんじゃない。

    ――篠田さんは、みんなが苦しんでいるこの状況を見ているのが辛いんだ…。

    島田はそこでハッと我に返った。

    島田「はい…」

    島田が小さく返事をする。
    篠田はそこでようやく安心したのか、ぱっと島田の腕から手を放した。
    それから思い出したように、低周波の痛みに苦しみ出す。
    島田を止めるのに必死で、今まで痛みのことは忘れていたのだ。

    篠田「早く…監房に…」

    篠田が崩れ落ちたのを見て、3人は慌てて通路に飛び出した。
    まだ自由時間終了まで時間はあるが、とりあえず監房に戻ってしまえば看守の低周波は止まるだろう。

    466 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:41:14.48 ID:58HWYykmO
    小森「あれ?痛くない…」

    しかし、そこで突然看守の低周波が止まった。

    島田「え?そうなんですか?」

    島田は立ち止まり、看守の様子を窺う。
    看守達は不思議そうに腕を擦ったり、首をかしげたりしていた。

    前田「わーい、低周波止まったよー」

    前田が喜びの声を上げる。

    『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました』

    その瞬間、放送がかかった。

    『本日は看守の話し合いでなく、こちらのほうで懲罰房行きとなる囚人を決めさせていただきました。ただいま脱獄をはかった島田さん、市川さん、島崎さん、懲罰房の中で反省してください』

    467 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:42:23.87 ID:dfoewigg0
    これまた新しい展開

    468 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:43:52.38 ID:58HWYykmO
    峯岸「なんで3人が脱獄しようとしたこと向こうにバレてるの?トイレは監視されてないんじゃないの?」

    峯岸が薄気味悪そうに眉をひそめた。

    大島「たぶん、看守の何人かが通路で3人が脱獄しようとしていたことを話していたから、向こうに聞こえちゃったんだよ」

    いつの間に来たのか、大島がすっと峯岸の前に現れる。
    気がつけば、騒ぎを聞きつけた囚人達のほとんどが、トイレの前の通路に出てきていた。

    峯岸「優子…見てたの?」

    大島「うん。美郷ちゃんの声も聞こえたし、看守の後に駆けつけたんだ。ね?」

    小嶋「うん」

    大島の横にいた小嶋が頷く。

    『それから、今回はこの3名の他にもう1人、懲罰房に入っていただく方がいらっしゃいます』

    大島「え?誰?」

    469 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:45:45.85 ID:dfoewigg0
    梅ちゃんか

    470 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 15:48:26.81 ID:58HWYykmO
    『梅田彩佳さん。梅田さんは看守ですが、本人の申し出により、ルールを破ったペナルティとして懲罰房の中で反省していただきましょう。くれぐれも、今後はこのようなことがないようにお願い致します』

    放送はそこで終わった。

    大島「梅ちゃん!どうしたの?」

    すぐさま梅田のもとへ、大島が駆け寄る。
    秋元もまた、大島に先越されながら梅田のもとへ走った。

    秋元「まさか…梅ちゃん…」

    しかし梅田は心配する2人に、すっきりとした笑顔を向けた。

    梅田「大丈夫だよ。あたしなら平気だから。みんなは悪くない。あたしから言い出したことなの」

    大島「ごめん、あのことがバレたんだね?あたしがあんなこと頼んだから…」

    梅田「ううん、優子のせいじゃないよ」

    大島「でも、」

    大島が何か言いかけた時、峯岸がやって来て梅田の腕を取った。

    峯岸「…行こうか…」

    峯岸は気まずそうに梅田を促す。

    471 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:49:14.39 ID:G6QBJFYg0
    梅田「うん」

    大島「梅ちゃん…!梅ちゃんっ…!」

    大島が詰め寄ろうとするのを、秋元が無言で制した。
    秋元はそのまま、ゆっくりと首を横に振る。

    大島「才加…」

    大島は目に涙を溜め、秋元を見つめた。

    秋元「おとなしく…帰りを待とう…」

    その様子を、大家は離れたところからずっと目にしていた。

    ――違う…本当はうちのせいやけん…。うちが…あんなこと言い出したから…。

    472 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:49:26.31 ID:viWbp3XB00
    梅ちゃん " " " (´・_・`)

    473 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:49:46.25 ID:G6QBJFYg0
    大家はそこで、すべてを悟った。
    ICレコーダーに録音されていた看守の会話。
    あれを録音したのは、梅田だったのだ。

    ――あの時、好奇心に負けて再生ボタンを押さなければ良かった。

    そうすれば梅田は今頃、懲罰房へ連れて行かれることもなかっただろう。

    ――うちが看守の会話が録音されているのを聞いたなんて言ったから…。

    大家の心は、後悔の念で押しつぶされる寸前を迎えていた。

    475 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 15:50:56.75 ID:dfoewigg0
    まじでドラマ化希望

    474 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:50:44.46 ID:G6QBJFYg0
    その夜遅く――。

    指原「……っ」

    指原は、自分のうめき声で目を覚ました。
    そんな経験は初めてだった。
    またしても同室の島崎が懲罰房に入れられてしまったことが原因だろう。
    そして、自分のいる監房からは嫌でも懲罰房のドアが目に入ってしまう。
    そのこともあって、指原は寝苦しさを感じていた。

    指原「水でも飲もう」

    ベッドから出て、料理係にもらった水のペットボトルを手に取る。
    喉の乾きを潤すと、いくらか気分が落ち着いた。

    指原「……」

    見ないようにしようとしても、つい懲罰房のほうに視線が行ってしまう。
    その時もまた、指原はほとんど無意識のうちにそちらへ顔を向けた。

    指原「あ、あれ…?」 <

    476 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:51:18.71 ID:G6QBJFYg0
    4つの懲罰房のうち、指原のいる第7監房から見えるのは手前側2つのドアだけだ。
    そのうちの、1つのドアの下から、ほんのりと明かりが洩れている。

    指原「なんで…?あぁ…」

    ――そうか。梅田さんは看守だから、特別に明かりを点けて貰えるんだった。

    指原はそこで、倉持が懲罰房に入れられた時のことを思い出した。
    あの夜も、1つの懲罰房だけドアの下から明かりが洩れていたのだ。

    指原「やっぱ看守ずるいなぁ」

    納得すると、途端に眠気が襲ってきた。
    今度こそいい夢が見られるよう祈りながら、再びベッドにもぐりこむ。

    477 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:52:45.12 ID:G6QBJFYg0
    《10日目》

    作業部屋――。

    仁藤「……」

    作業は淡々と進んでいく。
    囚人のうち3人が懲罰房に入れられており、さらに2人が洗濯物を畳むよう命じられていた。
    空席が目立つ作業部屋の中で、囚人達は時間内に作業を終わらせようと必死になっている。
    今回もまた、いない囚人の分の作業を仁藤が肩代わりすることになった。
    仁藤はイライラしながら、作業をこなす。
    隣の宮澤もまた、そんな仁藤に触発されたのか、いつも以上に熱心に作業へ取り組んでいた。

    松井「なんか…みんな怖いね…」

    松井が呟く。
    緊迫した雰囲気や、絶対に笑ってはいけない状況に限って、ついついニヤけたくなってしまうのだが、今日はそれも堪えようと心に決めた。
    そのくらい、作業部屋の中には殺伐とした空気が漂っていたのだった。

    478 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:54:29.26 ID:G6QBJFYg0
    作業終了後、第6監房――。

    仁藤「……」

    作業部屋と変わらず、第6監房でも冷たい空気が流れている。
    あれから、仁藤と宮澤は口を利いていない。
    最初は、何かきっかけさえあればすぐにいつもの調子に戻るだろうと考えていた仁藤だが、こうもお互い口を利かない時間が続くと、どんどん修復が難しくなってくる。
    仁藤は消しゴムを削りながら、宮澤へ話しかけるタイミングを探した。

    ――でも…駄目だ。今日こそこれを完成させないと。

    仁藤はそこで邪念を振り切り、消しゴムに向き合ってしまう。
    宮澤はベッドに座り、ぼおっと天井を見つめていた。

    仁藤「…よしっと」

    最後のひと削りを終え、やすりをかける工程に取り掛かる。
    完成まであと少しだ。

    ――さっしーが壊しちゃったから、また耳栓仕上げないと…。

    夕食が終われば、また自由時間が始まる。
    そうしたら懲罰房行きになる囚人が発表されるだろう。
    それまでに耳栓を完成させ、届けなければ…。
    仁藤は焦る気持ちを抑え、丁寧な手つきで仕上げ作業を続けた。

    479 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:55:46.22 ID:G6QBJFYg0
    一方その頃、第9監房では――。

    大島「昨日の脱獄騒ぎで、看守は今まで以上にあたし達囚人を警戒すると思う。その目をかいくぐってバレずに脱獄するには…」

    大島はぶつぶつと、いまだ脱獄計画について考えていた。

    仲俣「大島さん、少し休んだほうが…」

    そんな大島の姿を、仲俣は心配そうに見守る。
    大島の切羽詰った様子が痛々しかった。
    いつも余裕があって、元気いっぱいの大島が仲俣は好きなのだ。

    ――大島さんが焦っているのは、たぶん昨日の梅田さんの一件が関係しているのかな。

    仲俣の推測は、間違っていない。
    大島はあれから、一刻も早くこんな生活から抜け出そうと必死に考えを巡らせていたのだ。
    自分のせいで梅田を懲罰房に入れてしまったという自責の念がある。
    もう看守に協力は頼めないだろう。
    だったら、自分達だけでどうにかここを抜け出すしかない。

    大島「仲俣ちゃんも見たでしょ?昨日…」

    仲俣「はい、何ですか?」

    480 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:57:09.08 ID:G6QBJFYg0
    大島「通路で話していた看守が、レモンちゃん達の名前を口にした途端、低周波が流れた。誰が脱獄しようとしたのかわかった時点で、低周波は流されるようになってるんだよ。だったらやっぱり、脱獄したことがバレていない間は、看守の身は安全ってことだよね」

    仲俣「あぁ…そういうことになりますね。でもどうやってここからバレずに出るんですか?ドアを破ろうとすれば音で気付かれてしまいますし」

    大島「それが問題なんだよ。レモンちゃん達が割ったトイレの窓はあれから完全にふさがれちゃったし、お風呂にはそもそも窓がないでしょ?そうなるとどこから外に出ればいいのか…」

    仲俣「この建物全体がどうなっているのか把握しきれていない現状では、これ以上の道を探すのは無理そうですね」

    大島「うん。でもその無理なことを、あたし達は成功させなければいけない」

    仲俣「はい…」

    大島「そもそも移動するのにまず、この足音が問題なんだ。盗聴されてるから足音がすれば、すぐにとはいかないまでもいずれは向こうにバレちゃう」

    仲俣「はい…あ、靴脱げばいいんじゃないですか?裸足になれば…」

    大島「それも考えたんだけど、どうしたって無理なんだよ」

    仲俣「え?」

    大島「靴脱いでみて」

    481 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:58:20.38 ID:G6QBJFYg0
    仲俣「?はい」

    仲俣は言われた通り、靴を脱いで裸足になった。
    床に足をおろしてみる。

    仲俣「冷た…!」

    直後、仲俣は床の冷たさに驚き、慌ててベッドに飛びのった。

    大島「そうなんだよ。こんな状態じゃ、いざ外へ出てさぁ逃げようってなった時に、足がかじかんでてうまく走れないと思うんだ…」

    仲俣「そういうことですか…」

    仲俣は納得し、脱いだばかりの靴を拾い上げた。

    大島「まず逃げ道を見つける。そしてそこに行くまでの方法…足音をどうするかを考える。それが問題なんだよなぁ…」

    大島はそう言うと、ごろりとベッドに寝転がり、天井を見つめた。

    482 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 15:59:10.68 ID:G6QBJFYg0
    自由時間――。

    『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第8監房の中塚智美さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』

    放送がかかり、指原は待ちかねたように格子扉の外へ出た。
    これで島崎は懲罰房から解放される。
    中塚のことはもちろん心配だが、気の弱い島崎が解放されるのは、単純に嬉しかった。

    指原「あ…待てよ…」

    指原はそこで、はたと気がついた。
    脱獄に失敗して懲罰房に入れられた島崎は、きっとみんなとどんな顔をして会ったらいいか悩んでいるだろう。
    そして指原のほうでも、島崎にどういう態度で接したらいいか考えていなかった。

    ――これは非常に気まずいぞ…。

    そこで、島崎の帰りを待つことを断念し、指原は第7監房から逃げ出すことにした。
    とりあえず島崎のことは後回しにしよう。
    もう1つ、気になるのは大家のことだ。

    ――しいちゃん…あんまり落ち込んでなければいいけど…。

    大家は昨日、自分の発言が原因で梅田が懲罰房に入れられたのだと、責任を感じていた。
    どことなく、今日の作業中も元気がなかった。

    指原「しいちゃんの様子見てこよう」

    指原は大家のいる第14監房へ行くため、階段に向かって歩き出した。

    483 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:02:15.63 ID:58HWYykmO
    一方その頃、第5監房では――。

    渡辺「亜美菜ちゃんの顔ー」

    渡辺はスケッチブックに亜美菜の似顔絵を描いていた。

    佐藤亜「あー、ありがとう。可愛く描いてくれてる」

    渡辺「亜美菜ちゃんだとー、もう少し睫毛を長くして…」

    佐藤亜「わーい」

    亜美菜は子供のような声をあげ、喜びを表現した。
    その時、思わぬ人物が顔を出す。

    佐藤亜「あれー?どうしたの?」

    亜美菜は立ち上がり、その人物を中へ招き入れた。
    渡辺もちょっとずれて、座るスペースを作ってやる。

    佐藤亜「珍しいね、この房来るなんて」

    亜美菜が人懐こい笑みを浮かべ、来客を覗き見た。

    484 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 16:03:29.48 ID:viWbp3XB00
    肝心の板野が全然出てこないな

    485 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:04:34.09 ID:58HWYykmO
    仲俣「は、はい…今日はお願いがあって来たんです」

    亜美菜に話しかけられ、仲俣は緊張気味に切り出した。

    佐藤亜「お願い?」

    亜美菜が可愛らしく首をかしげる。

    佐藤亜「何何ー?」

    仲俣「はい…」

    仲俣は唾を呑むと、ここまで無言で様子を窺っていた渡辺に顔を向けた。

    渡辺「?」

    仲俣「渡辺さん、お願いです…」

    それから仲俣は、これまでの経緯を渡辺と亜美菜に説明し始めた。

    486 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:06:33.08 ID:58HWYykmO
    《11日目》

    第9監房――。

    河西「夕食でーす。今日は生姜焼きだよー」

    料理係がワゴンを押しながら、第9監房へとやって来る。
    作業で疲れていた大島だが、生姜焼きと聞いて飛び上がった。

    大島「わーい、スタミナつけるぜー」

    仲俣は、昨日とは別人のようにテンションの高い大島に、いささか不審の目を向ける。
    それから竹内を見やり、表情を曇らせた。

    ――美宥ちゃん…またバンソーコーの数が増えてる…。

    竹内は痛々しい手でごはんをよそっていた。

    487 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:08:44.13 ID:58HWYykmO
    河西「じゃあゆっくり食べてね。また後でお皿下げに来るから」

    河西は元気な大島を見て嬉しくなり、また自分自身も元気を分けてもらえたような気分になった。
    ここのところ、厨房に立つのも辛い。
    本当だったら朝寝坊したいところを、朝食作りのために早起きしなければならないせいだった。
    河西は睡眠が足りていないと、いまいち調子が出ないのだ。

    大島「いただきまーす」

    料理係が次の監房へ移ってしまうと、大島は早速豚肉にかぶりついた。
    その時――。

    米沢「優子ちゃん、優子ちゃん」

    米沢が戻って来た。
    なぜだか焦った様子で、しきりに周囲を警戒している。
    それを見て、大島の表情が変わった。
    突然真剣な眼差しになり、米沢と話すため格子扉に身を寄せる。
    まるで最初から、米沢だけ戻って来ることを予期していたかのような振る舞いだった。

    488 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:11:06.08 ID:58HWYykmO
    米沢「昨日もらった手紙だけど、返事はオッケーだから」

    米沢は大島に耳打ちした。

    大島「良かった。米ちゃんならきっといい返事をしてくれると思ってたんだ」

    米沢「で、いつなの?」

    大島「早いほうがいいけど、今日だとまだ準備が出来ていない。明後日でいいかな?」

    米沢「わかった。裏口のドアは5分で閉まる。そして…たぶんだけど1度閉まると、ごみ捨ての時間内であっても鍵は自動でかけられてしまう仕掛けみたいなんだよ」

    以前、ごみ捨ての時間内にも関わらず、ドアがロックされてしまったことがあった。
    てっきり誤作動を起こしたのか思っていたが、それからも何度か同じことが続き、米沢は鍵のシステムに気付いたのだった。

    大島「じゃあ…」

    米沢「あ、でも他の2人にはバレないように、ごみ捨ての後こっそりドアにストッパーを挟んでおくから安心して」

    489 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:13:37.19 ID:58HWYykmO
    大島「うん。ありがとう」

    米沢「じゃあ明後日、頑張ってね」

    米沢はそう言うと、慌てて料理係の後を追いかけた。
    その背中を見つめ、大島はにんまりと笑い、小さくガッツポーズを作る。

    仲俣「どうしたんですか?」

    仲俣が問いかけた。

    大島「ううん、なんでもない」

    大島はそう言って誤魔化し、再び豚肉にかぶりついた。

    ――知らないほうがいいんだよ…。

    491 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:16:14.20 ID:58HWYykmO
    脱獄計画の実行に、仲俣を巻き込むつもりなかった。
    失敗したときのリスクを考えたら、仲俣には安全に、解放される時を待っていてほしい。

    ――やっぱり米ちゃんに頼んで良かった…。

    そして大島は、米沢の返事に満足していた。
    これで脱獄計画がついに現実のものとなる。
    大島は昨晩、料理係が配膳に来た時にこっそり米沢に手紙を渡していた。
    それは、ごみ捨ての時間に脱獄させてほしいと頼むものだった。
    いつもより早めにごみ捨てを済ませてもらえば、残りの時間で大島達がドアを抜け、外へ出ることは可能だろう。
    米沢には他の2人にバレぬよう、ごみ捨てを早めに済ませておいてほしいと手紙でお願いしたのだった。
    そして米沢はそれを了承してくれた。

    ――ついに明後日、ここから外へ出られる…。

    あとは、残りの問題をどうするかだった。

    492 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:18:14.95 ID:58HWYykmO
    自由時間、第13監房にて――。

    板野「裏口が開いてるって?」

    板野のいる第13監房には大島ら数名が集まっていた。
    そして、大島の計画を聞いた板野が、驚きの声を洩らす。

    板野「嘘?ともーみそんなこと一言も言ってなかったけど」

    大島「訊かなきゃいちいちごみ捨ての時間のことなんて話さないよ」

    板野「あ、そうか」

    秋元「で、料理係がごみ捨てをするのが自由時間の終了間際…うーんぎりぎりだねぇ。もし失敗したら、引き返そうにも監房の鍵がかかってて中に入れない」

    大島「そう。だから確実に成功させるしかない」

    高橋「いやに自信満々だけど、勝算はあるの?」

    高橋が確かめる。

    493 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:20:23.36 ID:58HWYykmO
    大島「ない。けど、米ちゃんが協力してくれる」

    高橋「米ちゃんは…料理係か。まぁそれなら少しは安心だね」

    大島「でも時間のことを考えると、大勢で脱獄は難しい。せいぜい3人てとこ」

    板野「誰が行くの?」

    大島「あたしと才加…それから…あれ?佐江ちゃんは?」

    仁藤「監房で寝てます。なんか体調悪いみたいで返事しないし」

    大島「そっか…じゃあ佐江ちゃんは無理かな」

    大島は残念そうに言った。

    494 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:22:25.18 ID:58HWYykmO
    板野「じゃああたしが行く」

    板野は決意に満ちた表情で、大島を見つめる。
    以前から考えていたことだった。
    絶対に、何がなんでも脱獄する。
    そして、みんなをここから助けたい。
    表情に出ないだけで、板野はずっと心の中でメンバーを心配していたのだった。
    しかし、大島は板野の立候補を退けた。

    大島「ともちんはここに残って」

    板野「え…?」

    大島「いざという時、あたしと才加がいなかったら、Kメンの子達は誰に相談すればいいの?誰を頼ればいいの?」

    板野「優子…」

    大島「そういうこと。ともちんがいれば、ここに残されたメンバーの安心感が違うでしょ」

    板野「わかった。だけど約束して。絶対に脱獄…成功させてね」

    大島「うん、わかってる」

    495 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:25:17.20 ID:G6QBJFYg0
    秋元「よし、決まりだ。じゃあ3人目は…」

    大島「この人を連れて行こう」

    小嶋「えー?あたしー?やだー」

    大島はここまで興味のなさそうな雰囲気を出していた小嶋に近づくと、その腕を取ってみんなの輪の中に引き入れた。

    高橋「えぇ?にゃんにゃん連れてくの?あ、危ないよ…」

    高橋は小嶋の二の腕を擦りながら、説得するように言う。

    高橋「この人おっとりしてるし、突拍子もない行動起こすから大変だよ…」

    小嶋「たかみな触らないで。やだ」

    小嶋は高橋から腕を振りほどきながら抗議した。

    高橋「あ、ごめん…」

    小嶋「なんか触り方が嫌!」

    しゅんとしてしまった高橋を放っておいて、秋元が尋ねる。

    秋元「なんで陽菜なの?」

    497 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:26:16.70 ID:G6QBJFYg0
    大島「この人、なんだかんだいって強運だし、いろいろ持ってるからねー。まぁ、縁起かつぎみたいなもんですよー」

    指原「わかりました!招き猫的な?にゃんにゃんだけに?」

    小嶋「あ、さっしーいたんだ?気付かなかったー」

    指原「…すみません…」

    指原が気まずそうに背中を丸める。

    仁藤「それで、裏口までどうやって行くんですか?監視はされてなくても、普通に行ったんじゃ足音で気付かれちゃいますよ」

    仁藤がなぜか耳に残る特徴的な声で、割って入った。

    大島「萌乃ちゃ…」

    大島は仁藤の顔を見て硬まる。
    それから気がついたように、大声を上げた。

    大島「あー!」

    仁藤「え?え?何?」

    大島「萌乃ちゃん、まだ消しゴム持ってる?」

    498 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:27:19.33 ID:G6QBJFYg0
    仁藤「え?消しゴムですか?持ってますけど…」

    大島「その消しゴムでさ、これくらいの大きさに切ったやつをいっぱい作って、靴底に貼り付けられないかな?」

    大島が指で小さな丸を作りながら尋ねる。

    仁藤「出来ますけど…何のために?」

    大島「ほら、スパイクみたいにさ、小さい消しゴムをいっぱい靴底に貼り付けたら、足音消せないかな?」

    秋元「あぁ!そういうことか!」

    仁藤「確かに、それならだいぶ足音が小さくなるかも…」

    大島「お願い、明後日までに3足、それ作ってくれない?」

    大島は勢いこんで、仁藤に詰め寄った。

    仁藤「わかりました。でも…消しゴムを小さく分けるのは簡単ですけど、どうやって靴底に貼り付けたらいいか…あたし接着剤とか持ってないし」

    仁藤は大島の勢いにたじろぎながら、そう説明した。
    大島が集まった面々を見渡す。

    大島「誰か接着剤持ってないー?」

    499 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:28:14.50 ID:G6QBJFYg0
    秋元「えー?ないなぁ」

    高橋「あたしも持ってない」

    板野「いつもだったらネイル用の持ち歩いてるけど…今はちょうど持ってないや」

    小嶋「おりゃ、おりゃ、あーつくなーれ!あーつくなーれ!」

    大島「接着剤の代わりになるようなものでもいいけどー?」

    指原「指原も持ってないです」

    大島「駄目かぁ…」

    大島はがっくりと肩を落とした。

    大島「今からみんなに持ってないか訊いて回るか…でもよく考えたら接着剤持ち歩いてる子なんてそうそういないよなぁ…」

    その時、秋元が何か閃いた。

    秋元「あたし…看守の部屋に接着剤が置いてあるの見た」

    高橋「えぇ?なんで?」

    秋元「ほら、みゃお達が小火騒ぎ起こして、看守の部屋が水浸しになったじゃない?その時看守の部屋の中にみんな入った…確か…隅の机の上に接着剤、置いてあったよ」

    500 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:30:00.58 ID:G6QBJFYg0
    指原「でも、囚人は看守の部屋に入れないですよ」

    高橋「看守の子に言って取ってきてもらうか…」

    秋元「駄目、このタイミングで言ったら、絶対怪しまれる。島田達が脱獄騒ぎを起こしたばっかりだよ?」

    高橋「はぁ…そうだよねぇ…」

    小嶋「おりゃ、おりゃ、あーつくなーれ!あーつくなーれ!」

    板野「あ、でも、看守の部屋に近づくことくらいなら出来るよ」

    大島「え?どうやって?」

    板野「一昨日かな?洗濯物を畳むように言われて、作業部屋から出さされたんだよ、あたし」

    高橋「あぁ、そういえばともちんそうだったね」

    板野「うん。作業部屋から出たら、看守の部屋の前に洗濯物が山積みになってて、椅子も用意されてた。あたしと、あの時はらんらんが一緒だったかな?2人で椅子に座って、延々洗濯物を畳まされたんだよ」

    大島「つまり、看守の部屋の前までは行けるってことね。洗濯を命じられた囚人は」

    板野「うん」

    秋元「でも、そこからどうやって看守の部屋にしのびこむか…」

    小嶋「…あーつくなーれあーつくなーれ!」

    大島「あ、それだ!」

    502 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:30:57.62 ID:G6QBJFYg0
    板野「?」

    高橋「え?」

    大島「そうだよ。小嶋さんの言うとおり…火だよ。火を起こせばいい」

    指原「どういうことですか?」

    大島「看守の部屋の近くでまた火災が起きれば、スプリンクラーが作動して看守の部屋は水浸しだ。そうしたらまた堂々と、拭き掃除をするため看守の部屋に入ることができる」

    秋元「その時、看守の目を盗んで接着剤を取ってくれば…」

    大島「うん!」

    仁藤「これで脱獄ができますね」

    板野「あ、でもさ、どうやって火を起こすの?」

    大島「あ…」

    そこで一同は黙り込んだ。
    火を起こせなければ、看守の部屋に入ることは出来ない。

    ――せっかくここまで話が進んだのに…。

    大島はまだ必死に考えを巡らせていた。
    何か、何か方法があるはずだ。

    指原「あれ?」

    その時、指原が何かに気付き、立ち上がった。
    指原の視線の先、第13監房の前に立っていたのは――。

    503 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:32:17.36 ID:G6QBJFYg0
    仲俣「火なら起こせますよ」

    大島「仲俣ちゃん…!」

    仲俣「すみません、大島さんの様子が変だったから、何か計画があるのかもって思って…。わたしも何か皆さんのお役に立つことができないかと、今まで立ち聞きしちゃってました。ごめんなさい」

    大島「いいよいいよ。あたしはただ、仲俣ちゃんを…」

    仲俣「はい、大島さんの気持ちは理解しているつもりです。ありがとうございます」

    仲俣をそう言って、人懐こい笑顔で大島を見た。

    大島「そんな…」

    大島はぎゅっと仲俣の手を握る。

    秋元「でさ、火を起こせるって…どうやって?」

    2人の間に、秋元が割って入る。

    仲俣「あぁ、そうでした。あの、第5監房にライターがあるんです」

    高橋「第5監房だと…まゆゆと亜美菜か」

    仲俣「はい、そうです」

    板野「なんでそんなこと知ってるの?」

    505 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:33:17.51 ID:G6QBJFYg0
    仲俣「昨日、遊びに行かせてもらったんですよ。それで、亜美菜さんがライターを持っているのを見ました」

    仁藤「亜美菜ちゃんにライター…変な組み合わせ」

    仁藤が納得のいかない顔で首をかしげる。

    仲俣「メイク用だって言ってましたけど…」

    板野「わかった!ビューラー温めるのに使うんだよ」

    小嶋「懐かしー。わたしも高校生の時よくやってたよー」

    板野「あたしも」

    大島「はいはいそこの2人ー?懐かしがってないでー。これからどう動くか、順を追って説明するよー」

    美容話に花が咲きはじめた小嶋と板野を、大島がたしなめる。

    大島「亜美菜ちゃんのライターで火災を起こし、看守の部屋に入る。接着剤を取ってくる。萌乃ちゃんはそれを使ってあたし達の靴に消しゴムを貼り付け、スパイクを完成させる」

    大島「明後日は、ごみ捨ての時間に裏口が開くのを見計らって、一気にあたしと才加、にゃんにゃんの3人が外へ出る。いいねー?」

    こうして、大島の脱獄計画がスタートした。

    506 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:34:15.53 ID:G6QBJFYg0
    《12日目》

    峯岸「たかみな手伝ってよー」

    峯岸はそう言うと、唇を尖らせた。

    高橋「し、しょうがないなぁ。じゃあみんな、手伝おうか」

    高橋は渋々といった表情で、腰を上げる。

    横山「え?でも残りの作業、どうします?」

    珍しく、横山が口を挟んだ。

    高橋「みんなでやればすぐ拭き終わるよ。このままだと部屋が水浸しで、看守の人達が大変でしょ?」

    横山「そうですね」

    こうして囚人達は、作業部屋から看守の部屋へ移動することになった。
    大島と板野は、歩きながら目配せをする。
    すべては計画通りだった。

    ――良かった、これで堂々と看守の部屋に入れる…。

    507 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:35:09.19 ID:G6QBJFYg0
    亜美菜から借りたライター。
    それで火災を起こしたのは、板野だ。
    洗濯物の畳み方がきれいな板野は、看守の要望で作業から外されることができた。
    予定では自ら洗濯物を畳みたいと立候補するはずだったが、看守のほうから指名されたので好都合だった。
    思わぬ幸運と、両親の躾に感謝して、板野は看守の部屋の前に向かった。
    そうしてポケットに忍ばせておいた紙に火を点け、ドアの下から部屋の中に差し入れたのだ。

    篠田「じゃあ雑巾はそこだから、ごめんね、頼むね」

    看守の部屋に入ると、篠田がてきぱきとメンバーを割り振る。
    その時、阿部がふと疑問を口にした。
    それは、誰もが当たり前に考えることだったが、今の大島達にとっては触れて欲しくない事柄だった。

    阿部「あの、なんで火災が起きたんですか?」

    阿部は真顔で、誰にでもなくそう問いかける。

    峯岸「さあ、わかんない。サイレンが鳴ってあたし達が駆けつけた時にはもう火は消えてたし。そういえば火元ってどこなんだろうね?」

    前田「わかんない。でも部屋が水浸しってことはここが火元なんでしょ?」

    宮崎「あ、ここここ!ここに燃えカスが落ちてますよ!」

    前田「ほんとだー」

    508 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:38:51.79 ID:58HWYykmO
    宮崎「何かの紙ですよね。でもなんで火が点いたんだろう。この部屋、誰もいなかったのに」

    小森「おばけですよ、おばけ」

    松原「こもりん、怖いこと言わないでよ」

    松原が口を尖らせると、小森はにやりと笑った。

    多田「やだやだ、そんなおばけとか…わたしもうこの部屋で寝られないよー」

    指原「じゃあ愛ちゃん、指原の監房で一緒に寝る?」

    多田「あーはいはい…そうですね…」

    多田は面倒臭そうに指原を手であしらった。

    篠田「でも真面目な話、どうして火が起こったのかわからないと怖いね。おばけとかそういうの抜きにして」

    前田「ねー?」

    柏木「…みゃお…またローソク使った?」

    柏木が訝しげに宮崎を見た。

    511 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:42:34.36 ID:58HWYykmO
    宮崎「えぇ?使ってないよ。だって一回小火起こして、大変だったじゃん。ローソクなんて二度と使わない。てかあれから怪談話してないし」

    柏木「じゃあどうしてだろうね…」

    宮崎「ゆきりんさぁ、意外と目つき怖い時あるよね」

    宮崎が口をへの字に曲げる。

    大島「あ、あ、それよりほら、早くこの部屋拭き取っちゃわないと。あたし達まだ作業残ってるし」

    秋元「うん」

    高橋「そ、そうだよそうだよ!早くしないと!」

    篠田「あ、そうだったね、ごめんね」

    そのまま疑問を残して、囚人と看守は拭き取り作業に取り掛かった。

    ――とりあえず、乗り切ったかな?

    板野は胸を撫で下ろし、手にした雑巾を動かす。

    513 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:46:07.32 ID:58HWYykmO
    小嶋「麻里ちゃーん、あたしの分の雑巾ないよ」

    篠田「え?なんで?そこにあるじゃん」

    小嶋「もうない。みんなに取られちゃったー」

    篠田「うーん…」

    小嶋「やんなくていい?」

    篠田「えー?じゃあなんか、代わりに拭いたとこ掃き掃除でもしててよ。ほら、そこにほうきとちりとりあるから」

    小嶋「はーい」

    前田「あー、にゃんにゃんだけずるいー」

    30分ほどで拭き取り作業は完了した。
    元の作業を再開するため、作業部屋に戻る。
    移動する囚人達。
    その中で、大島のポケットが妙に膨らんでいることに、誰も気付いていない…。

    514 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:49:17.27 ID:58HWYykmO
    自由時間、第8監房――。

    『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第8監房の横山由依さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』

    横山「とかいって、うちを騙す気なんやろ?うちが慌てるとこ見て、笑うつもりなんやろ…」

    中塚「由依ちゃん?何ぶつぶつ言ってるの?」

    中塚が心配そうに横山を見る。

    北原「横山ー?迎えに来ましたけど」

    横山「…ホンマヤン…」

    北原「?何言ってるの?はいはい、ついてきてー。悪いけどもう決まったことだから。ごめんね」

    北原に引きずられるようにして、横山は懲罰房へ向かった。

    516 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:51:08.41 ID:58HWYykmO
    横山「なんでうちが懲罰房に入らないかんのやろ…」

    北原「…ごめん…」

    第7監房の前を通り、懲罰房のドアの前まで来た。
    途中で指原に声をかけられたが、横山はもうそれどころではない。

    ――なんで北原さん、今日こんなにうちに冷たいんやろ…。

    横山の中では、懲罰房に入れられる恐怖より、怒りのほうが勝っていた。

    517 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 16:53:55.71 ID:58HWYykmO
    一方その頃、第6監房では――。

    仁藤「……」

    仁藤は靴作りに励んでいた。
    こうした作業は得意だ。
    集中力もある。

    仁藤「…1足目できたっと。良かった、この調子なら明日までに3足出来上がりそう!」

    時折ひとり言を言いながら、消しゴムを切ったり、接着剤で貼り付けたりしていく。
    仁藤はすっかり自分の世界に入りこみ、周りが見えていなかった。
    仁藤のすぐ傍で、宮澤はじいっと目を閉じている…。

    518 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 16:57:02.74 ID:G6QBJFYg0
    一方その頃、横山は――。

    横山「ここ嫌やわ…」

    北原に案内された懲罰房の前で、横山はいやいやと首を振った。

    北原「なんでー?」

    横山「ここが角で、向こうまで通路が続いてますやろ?そうしたらここ、方角的にあかんわ。鬼門です」

    北原「え?あ、そう?じゃあ隣の房にする?」

    横山「はい、お願いします」

    北原が2番目のドアを指差すと、横山は案外素直に頷いた。
    北原の手が震える。
    やはり友人を自らの手で懲罰房に入れるのは気が引けた。
    しかし、自分が監房まで呼びに行けば、いくらか横山も安心するだろうと考え、懲罰房への案内役をかってでたのだ。

    北原「じゃあまた明日、これくらいの時間に迎えに来れると思うから」

    横山「はい…」

    横山にヘルメットを装着させ、扉を閉める。
    そうして外から、中の明かりを消した。

    ――横山…どうか…耐えて…。

    北原は祈るように両手を組み、しばらく懲罰房の前に立ち尽くしていた。

    521 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:01:23.21 ID:G6QBJFYg0
    一方その頃、藤江は――。

    藤江「はーるきゃんっ!1人ー?」

    ひょっこりと第13監房に現れたのは、看守の藤江だった。
    1人物思いに耽っていた石田が、目を見開く。

    石田「れいにゃん来てくれたんだ?」

    藤江「うん、なかなか遊びに来れなくてごめんねー」

    石田「いいよ。看守の仕事、大変なんでしょ?」

    藤江「うーん…なんだかんだ毎日何かしらの当番についてる」

    石田「当番?」

    藤江「うん。掃除とかー、あと見回りとか!」

    石田「へぇ、見回りなんてあるんだ?」

    藤江「うん。あ、はるきゃん気付いてないと思うけど、何回かあたし、深夜の見回りではるきゃんの寝顔見に来てるよ」

    石田「嘘?全然気付かなかった」

    藤江「だって寝てるもん」

    石田「えー?何時頃?」

    522 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:02:26.03 ID:G6QBJFYg0
    藤江「うーんと、12時頃かな?あと、3時にももう一回あるよ」

    石田「ひぃー、3時って午前でしょ?大変じゃない?」

    藤江「大変!眠い!」

    藤江はそう言うと、きゅっと口角を上げた。
    不平不満も、藤江が口にするとネガティブに聞こえないのが不思議なところだ。
    寝不足のはずなのに、相変わらず周囲には健康的美人といった雰囲気が漂っている。

    石田「今度もし起きてたら、れいにゃんが見回り来た時声かけるよ」

    藤江「うん、そうしてー」

    それから石田と藤江は、束の間楽しい時間を過ごした。
    石田にとって、この監禁生活で心から笑えたのは、これが初めてである。

    523 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:02:55.90 ID:G6QBJFYg0
    一方その頃横山は、懲罰房の中で――。

    横山「これが噂に聞いた萌乃ちゃんの耳栓やな」

    ドアの近くを何度か探ると、いつの間にか耳栓が落ちていた。
    話には聞いていたが、装着した途端に大音量の音楽が気にならなくなるのでありがたい。

    ――クリスさんの言う通りやった…。

    仁藤はすでに、中塚が懲罰房に入れられた時点で新しい耳栓を完成させていたのだった。
    そのお陰で、中塚はひどいダメージを受けることなく、懲罰房を耐え切った。
    横山もまた、仁藤の耳栓に助けられる。

    横山「それにしても、ほんまに電気消されるんやなぁ…真っ暗で何も見えん…」

    いくらか余裕の出て来た横山は、床に腰を下ろし、ぼんやりと考え事をした。
    その時、指先に何かが触れる。

    ――何やろ…紙…?

    横山「こんなとこにごみ捨てたらあかんなぁ。拾っておきましょう」

    真面目な横山は、拾い上げた紙をポケットに突っ込んだ。
    日頃から、ぽい捨てなど、マナーには厳しいタイプだ。

    横山「もうやることないし、寝るか…」

    524 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:03:46.21 ID:G6QBJFYg0
    《13日目》

    第7監房――。

    指原「どうしよう…亜美が懲罰房に入れられちゃった…」

    指原はおろおろと、狭い監房の中を歩き回った。

    仁藤「大丈夫だよ、さっしー」

    仁藤はベッドに腰掛けながら、のんびりと語尾を伸ばす。

    指原「萌乃ちゃん、何でそんなに落ち着いてるの?亜美ああ見えて結構甘えたがりだし…」

    仁藤「大丈夫大丈夫」

    指原「え?」

    仁藤「だってあたし、耳栓作り直したもん」

    525 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:04:13.26 ID:G6QBJFYg0
    指原「あ、じゃあ…」

    仁藤「今は由依ちゃんが持ってると思う。昨日届けに行ったから」

    指原「お、そうか。亜美が懲罰房に入れられたのなら、入れ違いに由依が出てきてる」

    仁藤「うん」

    指原「じゃあ早速、由依のとこ行ってこよー。耳栓返してもらおうよ」

    仁藤「あ、待ってあたしも行くー」

    526 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:05:17.49 ID:G6QBJFYg0
    第8監房――。

    横山「萌乃ちゃんの耳栓で助かりました」

    中塚「うんうん、あたしもあれのおかげで、懲罰房の中でも寝ることができたし。すごいよね」

    横山と中塚が耳栓について話していると、その製作者である仁藤と、指原が監房に飛び込んできた。

    指原「由依ー!帰ってたんだね」

    横山「はい?萌乃ちゃんのおかげで、うちまったく異常がないです」

    指原「良かったねー」

    横山は指原と仁藤の顔を見ると、嬉しそうに目を細めた。

    仁藤「あ、そうそう由依ちゃん、耳栓返してもらえる。これからあーみんに届けてあげなきゃいけないから」

    横山「そうでした。ありがとうございます」

    横山は慌ててポケットの中を探る。
    その時、何かが床に落ちた。

    指原「あ、何か落としたよ?」

    指原が拾い上げる。

    横山「あぁそれ、懲罰房の中に落ちてたの拾ったんです」


    527 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:05:55.57 ID:G6QBJFYg0
    指原「…これ…ぷっちょの包み紙だ…」

    指原はしげしげと、拾い上げた紙を観察した。

    中塚「え?なんでそんなのが落ちてるの?あたしが入った時にはなかったと思うよ」

    指原「指原の時も…」

    仁藤「これって、誰かが懲罰房の中でぷっちょ食べてたってことだよね?すごい余裕だね…」

    中塚「うん。神経図太いなぁ」

    横山「そんなにおなかすいてたんでしょうか?」

    指原「さぁ…」

    4人はほとんど同時に首を傾げた。

    528 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:06:23.33 ID:G6QBJFYg0
    指原「あ、これ一応預からせてくれる?」

    横山「?いいですよ」

    指原「ありがとう」

    指原はそうして包み紙を自分のポケットに仕舞った。
    特に意味があったわけではない。
    なんとなく、おかしなものを見ると写真におさめてしまったり、持ち帰ったりする癖があるのだ。
    今回もそうだった。

    仁藤「あ、それよりほら、耳栓届けてあげないと」

    仁藤が気がついたように言う。

    横山「あ、はいこれ」

    横山が差し出した耳栓を受け取ると、仁藤と指原は懲罰房に向かって駆け出した。

    529 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:07:06.10 ID:G6QBJFYg0
    数分後――。

    大島「準備はいい?」

    第9監房に集まった面々は、大島の顔を見て大きく頷いた。

    大島「そろそろ料理係のごみ捨ての時間だ。米ちゃんがドアにストッパーを挟んでおいてくれる。ごみ捨ての時間になってちょっと過ぎた頃に、あたし達は出発する。そのまま一気に地下まで行き、裏口を目指そう」

    秋元「わかった」

    秋元がきりりとした表情で返事をする。
    小嶋は消しゴムが貼り付けられた靴が気になるか、ふて腐れた顔をしていた。
    それでも、脱獄の意思はあるようで、文句も言わず大島の話に耳を傾けている。

    大島「あ、それから、」

    板野「え?」

    片山「あの、ちょっといいですかー?」

    その時、片山が姿を現した。
    大島は慌てて口をつぐむ。

    大島「ん?何何ー?」

    平静を装って返事をした。

    530 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:07:59.10 ID:G6QBJFYg0
    片山「今日から点呼のやり方が変わったんだよ。だからそれを知らせに…」

    高橋「変わったって?」

    片山「うん、自由時間が終わったら、自分の監房に戻らずに、1階の廊下に整列していてほしいの。そのほうが早いし…それに…」

    板野「?どうしたの?」

    片山「ほら、最近色々あったじゃない?別に囚人のみんなを疑っているわけじゃないんだけど、まぁ…その…」

    片山は困ったように言葉を濁した。
    秋元が助け舟を出す。

    秋元「大丈夫大丈夫、疑ってるとか…別にあたし達も看守を悪者みたいには考えてないから。単純に、そのほうが点呼しやすいからだよね?」

    片山「え?う、うん…」

    高橋「わかったよ、ちゃんと整列しておく」

    片山「はい、お願いします」

    片山はほっとした顔で頭を下げると、次の監房へ移っていった。
    その姿が見えなくなると、大島はふうっと息をつく。

    大島「話は聞かれてなかったみたいね。良かった」

    533 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:12:31.13 ID:58HWYykmO
    秋元「うん。でもこれから点呼の時に整列するってことは…」

    大島「あたし達がいないのがすぐにバレちゃう」

    板野「大丈夫?そうしたら看守に低周波が…」

    宮澤「……」

    高橋「……」

    仁藤「でももう、やるしかないんじゃないですか?1度やろうとしたことを諦めて、それでいいんですか?」

    潔癖な仁藤が、珍しく強い口調で語りかける。

    仁藤「米ちゃんにもう話は通ってるし、ここで諦めたら米ちゃんの好意を裏切ることになりませんか?」

    指原「米ちゃん…」

    仁藤「それにあたし、やっぱりあれだけ苦労して靴を作ったんだし、使ってほしいです。それを使って、ちゃんと脱獄してほしいです」

    仁藤の剣幕に、大島は目をむいた。

    ――萌乃ちゃん…。

    534 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:15:23.92 ID:58HWYykmO
    日頃は黙々と練習に明け暮れ、曲がったことが大嫌いな仁藤。
    その頑固さは時に融通が利かず、メンバーにきついことを言ってしまったりもする。
    だけど大島は知っていた。
    突然泣き出したり、怒ったり、メンバーに甘えてみたり…。
    態度がころころ変わるのは、それだけ仁藤が素直で純粋だということなのだ。
    そして大島は、そんな仁藤が嫌いではなかった。

    大島「わかったよ。脱獄は中止したりしない。やる!」

    大島が決断する。

    秋元「うん。要は看守に気付かれる前になるべく早く、助けを呼べる場所まで逃げればいいってことでしょ?出来るよ、きっと」

    大島「うん」

    2人はすっかり、小嶋の存在を忘れていた。
    板野は密かに危惧している。

    ――陽菜が足を引っ張らなければいいけど…。

    しかし、今は小嶋を信じるしかない。

    大島「よし、時間だ。行こう」

    大島が時計を見上げ、立ち上がる。
    いよいよ脱獄の時だ。

    536 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:19:07.00 ID:58HWYykmO
    一方その頃、米沢は――。

    米沢「これでよしっと…」

    ごみ捨てを済ませた米沢は、ドアの隙間に割り箸を挟み、閉まらないように細工した。

    河西「米ちゃーん?何やってるの?」

    厨房に向かって歩きかけていた河西に声をかけられる。
    竹内も、河西の隣で不思議そうに米沢を見ていた。

    米沢「あ、ううんなんでもない。今行くー」

    米沢はパッと笑顔を作ると、裏口から離れ、2人の後を追いかけた。

    河西「今日なんか風強かったね」

    竹内「あ、はい、そうですね」

    河西「明日のメニューどうしようか?」

    535 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 17:16:09.83 ID:OPYLglfn0
    一日でめっちゃ進んでるなw
    楽しいよ

    545 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:45:49.46 ID:G6QBJFYg0
    >>535
    ありがとー。
    丸一日休みが今日くらいしかないから一気に進めた。
    ラストまで持って行きたいけど今日中には無理そう。。

    550 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 17:48:03.84 ID:OPYLglfn0
    >>545
    無理かー
    でも楽しみが続くのもいいもんだからね
    がんばって!

    537 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:21:12.33 ID:58HWYykmO
    竹内「あ、それなんですけど、仲川さんからリクエストされて…」

    河西「え?そうなの?はるごん何が食べたいんだって?」

    竹内「チョコとアイスだそうです」

    河西「えー?それはさすがにあたしも作れないなぁ」

    竹内「材料ないですよね」

    河西「可哀想だけど、諦めてもらうしかないね。チョコとアイスじゃごはんにならないし」

    竹内「仲川さん、お菓子食べたいって連呼してました」

    河西「あぁ、そうだよねぇ…辛いよね」

    竹内「はい…」

    米沢「何何ー?何の話?」

    追いついた米沢が話に入ると、河西は何か、仲川の満足するお菓子が作れないかと相談を始めた。

    538 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:24:23.49 ID:58HWYykmO
    一方その頃、大島達は――。

    大島「思った通り。消しゴムのおかげで足音しなくなってる!」

    秋元「うん」

    小嶋「……」

    3人は階段までやって来ると、1度辺りを見回した。

    ――大丈夫、誰もいない。

    そうして慎重に、しかし素早く、地下へと階段を下りる。

    大島「……」

    地下へ下りると、大島は口を閉じ、身振りだけで他の2人に指示を出した。
    地下は囚人の立ち入り禁止区域だ。
    ということは、地下で大島達の声が拾われれば、それだけで脱獄に気付かれてしまうだろう。

    秋元「……」

    3人は、真っ直ぐに通路の奥、裏口を目指した。

    ――ここだ…。

    そしてようやく、外へと続く希望の扉に手をかける。

    539 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:26:19.45 ID:58HWYykmO
    大島「……?」

    ――開かない…。何で…?

    大島はそおっとドアを押したり引いたりしてみる。
    しかしドアはびくともしなかった。

    ――米ちゃん、開けておいてくれると言ったのに…。

    焦る大島の肩を、秋元が叩いた。
    手首を指差し、時間が押し迫っていることをジェスチャーで伝えようとしている。

    ――そんな…せっかくここまで来たのに…。

    3人は、決断を迫られた。
    このまま強行突破するべきか、おとなしく戻るべきか。
    いずれにしても、もう時間はない。

    540 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:30:35.92 ID:58HWYykmO
    一方その頃、板野は――。

    板野「……」

    板野は廊下に整列し、看守が点呼にやって来るのを待っていた。

    ――優子達、今頃はもう脱獄しているところかな…。

    心配ではあるが、きっとやってくれると信じている。

    増田「遥香ー?おらんのー?」

    すぐ傍で、増田が必死に仲川を探している。

    増田「ほんまどこ行ったんやろ…」

    板野「はるごんいないの?」

    増田「そうなんよ、もうすぐ点呼やのに…」

    板野「点呼のやり方が変わったの、知らないのかな?もしかして監房に戻ってるのかもしれないよ」

    増田「あぁ、そうやな。ちょっと呼んでくるわ」

    増田が駆け出そうとする。
    その時、ひょっこり仲川が姿を現した。

    仲川「わーいみんな勢ぞろいー」

    541 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:33:56.75 ID:58HWYykmO
    増田「遥香、どこほっつき歩いてたん?」

    仲川「えー?色々」

    増田「こういう時くらいじっとててほしいわ。ほんまヒヤヒヤする」

    仲川「ごめーん」

    仲川が増田に抱きついたところで、看守が数名やって来た。

    前田「点呼取りまーす」

    仲川「はーいはーい!はるごんはここにいるよー!」

    前田「うん、ごんちゃんいるね。じゃあ端から数えていくからじっとしててくださーい」

    前田らは通路の1番奥から、囚人の顔を確認していく。

    前田「1、2、3、4…」

    板野はその時が来るまで、祈るような気持ちで待った。
    やがて点呼が終わり、前田が首をかしげる。

    前田「あれ?なんか…3人足りないような…」

    542 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:38:15.62 ID:58HWYykmO
    峯岸「嘘?ちゃんと数えた?」

    篠田「もう1度数えてみる?」

    看守達はそれぞれ不思議そうな顔で、囚人達を見渡した。

    ――お願い、もう少しだけ、優子達がいないことに気付かないでいて…。

    板野の心臓はもう限界寸前だった。
    ぎゅっと目を瞑り、天に祈る。

    ――どうか…あと少しでいい。時間をください。優子達がちゃんと逃げ切れるまで…。

    しかし、板野の祈りが天に届くことはなかった。

    篠田「あれ?陽菜がいない…」

    峯岸「優子もいないよ」

    前田「才加もだ。どうしたんだろう…?」

    ついに、看守が3人の不在に気付いた。

    ――終わった…。

    板野はその場に脱力する。
    これから3人の捜索が始まるのか。
    看守に低周波が流されるのが先か…。

    ――嫌だ、そんなの嫌だよ…。

    その時だった。

    543 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:40:22.05 ID:58HWYykmO
    大場「捕まえましたー」

    階段のほうから、大場が誇らしげな顔でやって来た。
    大きな胸をつんと上に向け、悠然と歩いてくる。
    その後ろからついて来たのは――。

    前田「優子!陽菜!才加!」

    前田は3人の名を呼ぶと、直後にあんぐりと口をあけた。

    篠田「なんで陽菜まで…」

    大島達は肩を落とし、とぼとぼと大場の後ろからみんなの前にやって来た。

    篠田「どういうこと?捕まえたって…」

    大場「夕食の時、お皿を下げ忘れてたんで、厨房に返しに行こうとしたんです。そうしたら奥の裏口に3人がいるのが見えて」

    大場が説明する。

    大場「大丈夫です。ちょっと低周波にはやられたけど、すぐに注意を聞いていただけたんで」

    544 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:42:44.92 ID:G6QBJFYg0
    大島「ごめん…」

    前田「そんな…優子、才加…どうしてまた…」

    秋元「ごめん」

    峯岸「何で?脱獄しようとしたの?ひどいよ」

    峯岸が抗議の視線を向ける。

    『大島さん秋元さんの両名は、今回で脱獄を試みたのは2回目になります。よって、3日間の懲罰房行きを命じます。看守はただちに2人を懲罰房へ収容してください』

    そして、恐れていた放送がかかった。

    板野「そんな…!なんで3日も?そんなことしたら2人が死んじゃうよ!」

    板野は姿の見えない相手に向かって抗議した。
    目が熱いと感じた時にはもう手遅れで、流れる涙を止めることができない。
    悔しい。
    悲しい。
    情けない。
    様々な感情が同時に板野を襲った。

    547 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:46:36.80 ID:G6QBJFYg0
    前田「ともちん…」

    前田が同情を含んだ目で、板野を見る。

    大場「あれ?あたしなんかいけないことしました?」

    大場はけろりとした顔で、板野に視線を送った。

    ――看守の立場はわかるけど…どうして見逃してくれなかったの…?

    もちろん大場が悪くないのはわかっている。
    看守として当然のことをしたまでだ。
    だけど、せめて今だけは、見当違いだとわかっていても、大場に怒りをぶつけたかった。

    板野「ひどい…ひどいよこんなの…」

    一同は、板野の泣き顔を呆然と見つめている。

    大島「ともちゃん、もういいから…」

    高橋「でも優子…」

    高橋もまた、全体を睨み回した。

    高橋「いいの?これで?3日間なんて…普通におかしいでしょ?」

    しかし、高橋もどこかでわかっている。
    このままいつまでもここで言い合いをしていたって、しばらくすれば脱獄者をなかなか収容しようとしない看守に低周波が流されることだろう。
    大島と秋元もそれがわかっているから、あえて抵抗しないのだろう。

    549 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:47:54.49 ID:G6QBJFYg0
    秋元「もういいんだよ…」

    やはり秋元は、すべてを受け入れた表情で、高橋をたしなめた。

    秋元「あたしは大丈夫だから」

    高橋「……」

    口ごもる高橋を見て、篠田がそっと切り出した。
    ここは変に何か言葉をかけるのはよそうと考える。
    だから篠田の口調は、多少冷酷に聞こえたかもしれない。

    篠田「2人を…連れて行って」

    篠田の言葉に、大場が動く。
    大島と秋元はおとなしく大場のあとについて行った。

    小嶋「あたしはいいのー?良かったー」

    小嶋が心底安心したような声を上げる。
    しかし即座に篠田に忠告された。

    篠田「でもわかってる?次やったら陽菜も3日間懲罰房に入れられちゃうんだよ?きっと」

    小嶋「はーい」

    小嶋の返事は、なぜか深刻さに欠ける。

    553 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:51:40.92 ID:G6QBJFYg0
    大島「……」

    連れて行かれる時、大島は無言で板野を見た。
    板野が泣いている。
    悲痛な顔だ。
    自分が懲罰房に入れられるはいい。
    しかし、板野の期待を裏切ってしまったことが悲しかった。

    宮澤「……」

    次に大島は、囚人達の中に宮澤の顔を見つける。
    よほど脱獄の失敗がショックだったのだろう。
    宮澤の表情は暗く、大島と目を合わせることはなかった。
    これから3日間、自分は懲罰房の中で何を考えるのだろう。
    きっと、後悔しか出てこないんだ。
    大島もまた、絶望していた。

    554 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:52:15.70 ID:G6QBJFYg0
    《14日目》

    指原「あれ?ぱるるがいない…」

    朝、目を覚ました指原は、島崎の空いたベッドを見て、首をかしげた。

    指原「トイレかな?全然気付かなかったけど」

    しかし、朝食の時間になっても島崎が戻って来ることはなかった。

    ――どうしちゃったんだろう、ぱるる…。

    指原はか弱い後輩のことが心配でたまらなかった。

    指原「ぱるるの姿が見えないんだけど、何か知ってる?」

    作業が始まる前、迎えに来た永尾に尋ねてみる。

    永尾「ぱるるなら、深夜急に気分が悪くなって、今は看守の部屋の隣にあるスペースで寝ています」

    指原「え?大丈夫なの?風邪?」

    永尾「さぁわたしもわかんなくて、心配なんです。風邪って感じじゃなくて…なんか、ストレスでいろいろやられちゃったみたいで…」

    永尾はそう言うと、悲しげに唇を突き出した。
    指原は不覚にも、永尾のその表情にドキッとしてしまう。

    ――愛ちゃん、これは浮気じゃないからね…。

    心の中で多田に懺悔した。
    もちろん多田はそんなこと望んでいないのだが。

    555 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:53:08.84 ID:G6QBJFYg0
    作業終了後、第5監房――。

    渡辺「……」

    渡辺は熱心にスケッチブックに向かい、何かを描いていた。

    佐藤亜「どう?できたー?」

    亜美菜が声をかけても、渡辺は返事をしない。
    それくらい集中しているのだ。
    亜美菜は気を遣い、おとなしく渡辺の姿を見守ることにした。

    ――汐里ちゃんからの情報だけで、どこまで描けるんだろう…。

    そうして亜美菜は、背後からこっそり渡辺のスケッチブックを覗き込んだ。

    ――まゆゆ、すごい…。イラストだけじゃないんだ…。

    渡辺はあともう少しで描き終わるというところだった。
    なるべく正確に書こうとすると、つい性格のせいか色々とこだわりが出てきてしまう。

    ――まゆゆ、頑張って。

    亜美菜は心の中で渡辺を応援した。

    556 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:54:05.09 ID:G6QBJFYg0
    夕食――。

    米沢「ごめんね、割り箸をストッパー代わりにしてたんだけど、風で飛ばされてドアが閉まっちゃったみたいで…」

    配膳に来た米沢は、そう言って頭を下げた。

    板野「そうだったんだ…。ううん、それなら米ちゃんは悪くないよ。風のせいじゃ…」

    米沢「本当にごめんね」

    米沢は恐縮する板野の前で、何度も謝罪を口にした。

    米沢「今度はもっとうまくやるから」

    板野「でも、昨日のことで裏口の警備は強化されると思う。きっと優子も他の脱出方法を考えてるんじゃないかな。あ、配膳に行くなら、優子にそこのところ、訊いてみてもらえる?でも大音量で音楽聴かされてるんだし、無理かな」

    米沢「そもそも懲罰房への配膳は瑠美達料理係じゃなくて看守がやっているから、無理だと思う」

    板野「そっか…」

    米沢「でも、他の方法を考えるにしろ、何か協力できることがあったら言って」

    板野「ありがとう」

    557 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 17:54:33.52 ID:G6QBJFYg0
    米沢の好意が嬉しかった。
    まだ、米沢も脱獄は諦めていないのだ。
    今は1人でも協力してくれる人物がいるだけであり難い。
    心配なのは、昨日のことで大島達が脱獄を諦めてしまうことだった。
    板野はまだ、脱獄できる日を夢見ている。

    石田「……」

    2人の会話を、石田は密かに耳に入れていた。
    しかし、あえて何も言わない。
    他人のやることに干渉しないスタンスだ。

    558 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:57:35.87 ID:58HWYykmO
    自由時間――。

    『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第5監房の渡辺麻友さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』

    佐藤亜「まゆゆ…」

    渡辺「そんな…あと少しなのに…」

    渡辺はスケッチブックに鉛筆を走らせながら、恐怖に震えた。

    ――あと少し、あと少しで完成なのに…。

    佐藤亜「……」

    看守の足音が近づいてくる。

    佐藤亜「まゆゆ、それ隠したほうがいいんじゃない?看守の子に見つかったら誤解されるかも…」

    亜美菜が不安げに忠告した。

    渡辺「でももうちょっと…よし出来たー」

    559 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 17:59:12.13 ID:58HWYykmO
    平嶋「まゆゆー?迎えに来たよ」

    渡辺「あ、なっちゃん」

    平嶋が顔を出す。
    渡辺は咄嗟にスケッチブックを破り取ると、丸めてポケットに隠した。
    寸でのところで、平嶋には何も見られずに済んだようだ。

    平嶋「行こうか」

    渡辺「う、うん…」

    渡辺はポケットを膨らませたまま、監房を後にした。

    560 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:01:36.68 ID:58HWYykmO
    第7監房――。

    板野「ぱるる、具合悪いんだって?」

    1人になった指原のもとに、板野と高橋、小嶋の3人が訪れた。

    指原「そうなんです。指原心配で…」

    高橋「やっぱりストレスかなぁ」

    高橋は島崎の青白い顔を思い浮かべた。
    なんとなく、守ってやりたくなる雰囲気を持った子だ。

    板野「あれ?これは…?」

    板野はそこで、ベッドの下の紙束に気がついた。

    指原「ああそれ、亜美からの手紙です」

    板野「文通してるんだ?」

    指原「はい」

    指原はあれから何度も、亜美からの手紙を受け取っている。
    健気な亜美は、指原を元気付けようと毎晩壁の向こうの管を使い、手紙を送ってきていた。
    それはすでに、指原の密かな楽しみになっている。

    561 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:03:22.11 ID:58HWYykmO
    小嶋「なんで手紙なのー?直接言えばいいじゃん」

    指原「手紙だからなんか気持ちがこもっいて嬉しいんじゃないですか」

    小嶋「じゃああたしも麻里ちゃんに手紙書こうかな。でも本人から本人に直接渡すなんて馬鹿みたい」

    指原「指原と亜美は、直接手紙のやりとりしてるわけじゃないですよ」

    小嶋「えー?」

    板野「どういうこと?」

    指原の発言に、板野は眉をひそめた。

    指原「え?だから…この壁の向こうの管が上の監房にいる亜美に繋がっているんですよ。手紙はその管を使って送られてくるんです」

    指原はそう言って、壁の切れ込みを指差した。

    562 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:05:20.13 ID:58HWYykmO
    高橋「はぁ?管って…え?何?そんなの聞いてないよー」

    高橋が目を丸くする。
    指原は半信半疑といった様子の高橋に、実際に切れ込みの辺りを押して、管を出現させて見せた。

    高橋「うわぁぁすごい、これどうなってんの?」

    高橋は壁の向こうを覗き込み、驚きの声を上げる。

    指原「亜美の話だと、上の階で出た洗濯物を下へ送るための管らしいです」

    板野「じゃあこれ、下に繋がってるの?」

    指原「はい、たぶん」

    板野「ふうん…」

    板野は何か考えるように、息を洩らした。

    563 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:07:08.41 ID:58HWYykmO
    指原「?」

    板野「この管、人が通れるよね?」

    指原「あぁはい…大きさ的には可能だと思いますけど…え?ともちんさんまさか…」

    板野「うん」

    高橋「えぇ?」

    小嶋「何ー?何の話?」

    板野「この管を使って、脱獄できないかな?」

    指原「マジですか?」

    指原がとても信じられないといった表情で、板野に問いかける。
    板野はにやりと笑うと、口を開いた。

    板野「あぁ…マジだよ。マジで脱獄しなきゃ、懲罰房に入っている優子と才加に申しわけねぇだろ…」

    高橋「ともちん!」

    564 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:09:24.83 ID:58HWYykmO
    そうだ。
    大島と秋元はこれまで頑張ってくれた。
    みんなのために、自分を犠牲にして、今も懲罰房に入っている。
    そんな2人と一緒にいて、自分は果たして何か手助けになるようなことをしただろうか。
    何か役に立つことは出来たのか。

    ――あたしはまだ…何もしていない…。

    傍観者は嫌だ。
    大島と秋元のためにも、今度は自分が動こう。
    今度こそ、脱獄を成功させてみよう。
    その瞬間、板野の心は決まった。

    板野「あたしは絶対に…ここから脱獄してみせる…!」

    565 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:11:07.79 ID:58HWYykmO
    数分後――。

    高橋「…てことは、この管は普通に考えて洗濯部屋に繋がっているんだよね?」

    一同は脱獄について具体的に考え始めた。

    指原「はい、たぶん…。確かめてないんでわからないですけど」

    高橋「そこから外へ出られたりしないかな?洗濯部屋なら監視や盗聴もチェック甘そうじゃない?」

    小嶋「さっしーちょっと下に行って確認してみてよ」

    指原「ばっ、ちょっ、そんなことしたら捕まっちゃうじゃないですか!」

    小嶋「そうだねー」

    板野「具体的な建物の見取り図なんかがあればいいんだけど…」

    板野はそう言って、顎に手をやり、考え込んだ。

    566 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:13:14.50 ID:58HWYykmO
    仲俣「それなら、渡辺さんが持ってますよ」

    ふと声がして、通路のほうを見ると、仲俣がもじもじとして立っていた。

    板野「汐里ちゃん…なんで…?」

    仲俣「すみません。やっぱり気になって、また立ち聞きしちゃいました」

    仲俣が頭を下げる。

    高橋「まゆゆが見取り図持ってるって?なんで?」

    仲俣「皆さんのお役に立てないかと、わたし、密かに渡辺さんに見取り図を描いてもらえないか頼んでたんです。渡辺さんなら、アニメキャラの微妙な目鼻の配置まで把握してイラストを描くじゃないですか」

    仲俣「それだったら建物のだいたいの様子を聞いて、そこから正確な見取り図を紙に起こせるんじゃないかと思って…」

    高橋「あぁ確かに…考えられなくはないね」

    567 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:14:41.99 ID:58HWYykmO
    仲俣「大島さんから聞いて、建物の様子はわかっていたんで、それをそのまま渡辺さんに伝えました。きっと今頃は見取り図を完成させているかも…」

    板野「あ、でもまゆゆは今、懲罰房に…」

    高橋「よし、とりあえずまゆゆのいた第5監房に行ってみよう」

    仲俣「はい」

    一同は、仲俣のアイディアに感謝しながら、第5監房へ向かって駆け出した。
    そして、亜美菜から渡辺がスケッチブックのページを持って行ってしまったことを聞かされる。

    568 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:16:35.93 ID:58HWYykmO
    佐藤亜「でもまゆゆ、ギリギリのところで完成させてたみたいよ」

    高橋「じゃあまゆゆが戻ってくれば、その見取り図を見ることが出来るんだね?」

    佐藤亜「うん」

    板野「明日まで待つか…でもそんなんじゃ遅いよ。どうにかして懲罰房の中のまゆゆと接触できないかな?」

    指原「え?それはさすがに…」

    指原がそう言って眉を下げた時、一同の前を平嶋が横切った。

    佐藤亜「あ、なっちゃん!」

    平嶋「うーん」

    佐藤亜「何やってんの?」

    平嶋は食事の乗ったトレーを持っていた。

    569 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 18:18:18.50 ID:58HWYykmO
    佐藤亜「まだ食べるの?」

    平嶋「ちょっ、違うよ。これから懲罰房に食事を届けに行くの!」

    佐藤亜「えー?なんで今なの?」

    平嶋「本当は優子ちゃん達にこもりんが届けるはずだったんだけど、あいつ忘れてたんだよ。仕方なくあたしが代わりに届けるところ。2人ともきっとおなかすかせちゃってるよー」

    平嶋は呆れたようにそう説明した。

    平嶋「ついでにまゆゆにお水を届けてあげようと思って。明日まで出て来られないからね…」

    佐藤亜「そっか。ありがとねー。まゆゆに、亜美菜は1人でも大丈夫だよって伝えて」

    平嶋「うん。言っとく」

    平嶋はにっこりと笑うと、その場を立ち去った。
    その後ろを、板野がこっそりついてきていることに、平嶋はまだ気が付いていない…。

    570 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:20:48.80 ID:G6QBJFYg0
    懲罰房前――。

    平嶋「よいしょっと…」

    監房の扉を閉めると、平嶋は今度、隣の扉に手をかけた。
    鍵を開ける。

    ――後はまゆゆにお水を届けて…。

    板野「なっちゃん!」

    その時、背後から音もなく板野が現れた。

    平嶋「うわっ、なんでここにいるの?」

    驚いた平嶋は、思わず水の入ったペットボトルを落としてしまう。

    板野「ちょっとだけまゆゆと話せないかな?駄目?」

    平嶋「え…でも…」

    板野「お願い!」

    板野が丁寧に頭を下げる。

    平嶋「え?でもなんでまゆゆと…ともちん?」

    板野「そ、それは…」

    平嶋「痛…!」

    板野が言葉に詰まると、平嶋が苦痛に顔を歪め崩れ落ちた。

    571 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:21:58.55 ID:G6QBJFYg0
    板野「え?」

    ――やばい、低周波が始まったんだ…。

    平嶋「ここ…囚人は近づいちゃいけないんだよ…お願い…離れて…じゃないとあたし…」

    平嶋が苦しそうに板野に懇願する。

    板野「……」

    ――だけど、まゆゆと接触できれば、見取り図が手に入る…。

    板野が考えている間に、いよいよ平嶋の体力は限界を迎えようとしていた。

    平嶋「痛い…」

    痛みにもがいていると、手が懲罰房の扉に触れた。

    ――とりあえずともちんとまゆゆを会わせれば…。

    板野はまったく動こうとしない。
    それならもういっそのこと、望みどおり渡辺に会わせてやれば、納得してくれるだろう。
    そうすれば板野は立ち去り、自分はこの痛みから解放される。
    平嶋はそう考え、必死に扉を開けようとした。
    しかし手に力が入らず、なかなか思うようにできない。
    何度か肩で押すと、ようやく扉が開いた。

    平嶋「…うわっ…!」

    その瞬間、勢いがつきすぎて懲罰房の中に倒れ込んだ。
    通路からの灯りに照らされ、渡辺が呆然と立ち尽くしている姿が見える。

    572 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:22:21.11 ID:G6QBJFYg0
    渡辺「……」

    板野はそこで、自分が大変なことをしてしまったことに気づいた。
    見取り図を手に入れることばかり考え、平嶋に対する思いやりを忘れていた。

    板野「なっちゃん…ごめん…」

    板野はおろおろと平嶋の周りを行ったり来たりする。

    ――なっちゃん怪我しなかったかな…。

    しかし自分に出来ることといったら、一刻も早くこの場から立ち去るだけだ。

    板野「なっちゃん、ごめん行くね」

    板野はそう言うと、全速力で通路を引き返して行った。

    平嶋「……」

    残された平嶋は、不思議そうに腕時計を見つめている…。

    573 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:23:02.58 ID:G6QBJFYg0
    一方その頃、第6監房では――。

    仁藤「よし、これで全部耳栓完成!早速優子ちゃん達に届けてあげなきゃ」

    仁藤は密かに、耳栓作りを再開していた。
    懲罰房の中にいる大島と秋元に届けるためだ。
    急ピッチで作業を進め、ようやく完成にこぎつけた。

    仁藤「……」

    仁藤は出来上がったばかりの耳栓を手に、そっと宮澤を振り返る。
    宮澤は暗い表情で、うつむき加減にベッドに座っていた。
    時折苦しそうに空咳をするくらいで、ほとんど動くことはない。

    ――佐江ちゃん、具合悪いのかな…?

    言い争いをして以来、仁藤はまったく宮澤と口を利いていなかった。
    もうこの気まずい空気を終わりにしたいと考えているが、宮澤のほうから話しかけてこないのでは、なんとなくこちらもきっかけが掴めない。

    ――佐江ちゃん、他の子とは普通に喋るくせに…。

    仁藤は無意識のうちに、宮澤を睨むように見つめてしまった。

    仁藤「あれ…?」

    そこで仁藤は恐ろしい事実に気付く。

    ――まさか佐江ちゃん…。

    574 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:23:48.72 ID:G6QBJFYg0
    ここ数日、宮澤の声を聞いただろうか。
    自分とは会話がなくても、他のメンバーとは喋っているはずだ。
    しかし、仁藤以外のメンバーも集まっている場所でも、宮澤は何も発言していない気がする。

    仁藤「佐江ちゃん!」

    仁藤はケンカ中だったことも忘れ、宮澤に駆け寄った。
    宮澤が無言で仁藤を見る。
    その目は、生気を失い、どこまでも暗い闇をたたえていた。

    仁藤「…佐江…ちゃん…?」

    仁藤はおそるおそるもう一度呼びかけた。
    やはり宮澤の返事はない。

    仁藤「佐江ちゃんまさか…声が出ないの?ねぇ!そうなんでしょ?いつからなの?どうして?なんで今まで教えてくれなかったのよ!」

    仁藤は宮澤の両肩を掴むと、激しく揺すった。
    何の反応もしてくれない宮澤を前に、ついにこらえきれなくなった仁藤は、その頬を涙で濡らす。

    仁藤「ねぇ佐江ちゃん!返事してよぉぉ」

    575 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:24:45.10 ID:G6QBJFYg0
    《15日目》

    渡辺「これ…」

    懲罰房から解放された渡辺が、紙くずをポケットから出す。
    皺を伸ばして広げると、みんなに見えるよう中央に置いた。
    第13監房に集まった面々は、渡辺の出した紙面を食い入るように覗き込む。

    渡辺「話に聞いたのを図に起こしただけだから、実際は間違ってるかもしれないけど…」

    渡辺は自信なさげにそう付け足した。

    渡辺「でも、考えられる限り、忠実に再現できるよう、部屋の広さやバランスには気をつけました」

    板野「……」

    高橋「どう?ともちん」

    板野「…やっぱり」

    指原「え?じゃあ…」

    板野「うん。見て、この地下の部分…ちょうどさしこのいる第7監房の真下にあたる部分が空白になってる」

    渡辺「あ、それはわたしの想像というか、話に聞いた感じだと料理係の隣の部屋にもう1つ部屋がありそうなんです。もし地下が、ここより広さ的に縮小されていないのならですけど」

    板野「…でも、この見取り図のお陰で自分の考えに自信が持てたよ。ありがとう、まゆゆ」

    渡辺「いえいえ」

    渡辺が恐縮した様子で、両手を激しく振る。

    576 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:25:32.87 ID:G6QBJFYg0
    板野「それからなかまったーも…ありがとう」

    板野が視線を向けると、仲俣は神妙な面持ちで頷いた。

    板野「とにかくこの見取り図を見る限り、第7監房の真下に何があるのか、調べてみる価値がありそうだよね」

    高橋「壁の向こうから下に降りてみるの?」

    高橋が眉をひそめた。

    板野「うん、それしかない。あたしの想像だと、壁の向こうの管は洗濯室に繋がっていると思う」

    指原「…でも…あの管すごく狭くて1人が通るのやっとだし、それに下はかなり深いですよ?はしごか何かないと下りられません」

    仁藤「飛び降りるのならあたし得意だけど」

    仁藤が思いついたように発言する。

    板野「駄目だよ。もし怪我でもしたら…」

    高橋「うん、ここはもっと慎重に行ったほうがいい。もう失敗はできないよ」

    板野「うん、そうそう」

    仁藤「はい…」

    577 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:26:20.77 ID:G6QBJFYg0
    小嶋「じゃあ看守の子に頼んではしご持ってきてもらおうよー」

    高橋「無理だよ。優子と才加が脱獄に失敗して、看守はきっとナイーブになってる。この状況で協力なんて…してくれるわけない…」

    高橋はそう言って、くやしそうに舌打ちをした。

    指原「ですよねぇ」

    指原も高橋の様子に影響され、大きくため息をついた。

    ――いけない、たかみなが元気をなくすと、全体のモチベーションが下がる…。

    板野はそう気付き、さり気なく高橋の肩を抱いた。
    高橋も我に返ったようで、板野に向かって数回頷いてみせる。

    ――今はみんなで団結しなきゃいけない時だ。佐江ちゃんもあんな状態だし、これ以上雰囲気が暗くなることだけは避けなきゃ…。

    板野「…ん?」

    そこまで考えた時、板野はふとあることに思い至った。

    板野「ううん、看守の協力を得られるかもしれない」

    高橋「えぇ?」

    板野の発言に、全員が目を丸くした。
    板野は多少居心地の悪さを感じながら、ゆっくりと宣言する。

    板野「状況は変わった。これまでとは明らかに違う」

    578 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:26:54.98 ID:G6QBJFYg0
    仁藤「?違うって…」

    仲俣「何ですか?」

    板野「佐江ちゃんだよ」

    高橋「?」

    指原「あ…佐江ちゃん今声が出ないって…」

    渡辺「え?そうなの?」

    仁藤「うん。たぶん極度のストレス下に長時間置かれたことが原因みたい…」

    渡辺「それって治るの?もしかして佐江ちゃんこのままずっと…」

    仁藤「心理的なもので、体自体は問題がない場合が多いから、たぶん大丈夫だと思う。でも…いつになったら声が戻るのか…まったく予想がつかないんだ…」

    渡辺「そう…」

    渡辺はそれだけ言って、声を詰まらせた。

    高橋「でも…佐江ちゃんの変化がなんで看守に関係あるの?」

    高橋は話を戻すと、板野の問いかけた。

    579 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 18:27:35.85 ID:G6QBJFYg0
    板野「この状況で佐江ちゃんの変化はすごく厳しいと思う。だって考えてみて?元気のない佐江ちゃんなんて、見てるの辛いでしょ?」

    仁藤「う、うん…」

    高橋「普段元気なぶん、余計に痛々しく見えるというか…」

    板野「でしょ?だったら看守の子もあたし達と同じ気持ちだよ。佐江ちゃんのことを知ったら、きっと脱獄に協力してくれると思う」

    指原「あ、そっか!そうですよね!佐江ちゃんのことを逆手に取るようで、ちょっと卑怯な気もしますけど…やっぱりみんな佐江ちゃんには元気でいてほしいですよね!」

    小嶋「これがさっしーだったら、不思議とそうは思えないんだけどねぇ」

    指原「小嶋さん…ひどい…」

    指原が本気の涙目になり始めたので、高橋は再び話を戻した。

    高橋「じゃあ早速看守の子達に協力を頼んでみよう。始めるなら早いほうがいいでしょ?」

    しかし、立ち上がりかけた高橋を板野が制する。

    板野「あ、待って駄目」

    高橋「え?」

    589 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 19:00:44.27 ID:58HWYykmO
    板野「万が一のことを考えて、協力を頼む看守は少ないほうがいいと思う」

    高橋「あ、そうか…」

    仲俣「じゃあ誰に協力を頼めば…?やっぱり篠田さんですか?」

    板野「ううん、もっと適任がいるよ」

    仲俣の問いかけに、板野は悪戯っぽく八重歯を見せた。

    小嶋「えー?誰ー?」

    板野「…ゆきりんだよ」

    渡辺「え?ゆきりん?でもゆきりん基本面倒くさがりだけど、根は真面目だし…」

    板野「大丈夫。佐江ちゃんのことを知ったら、絶対にゆきりんは脱獄に協力する」

    板野は自信ありげに、そう断言した。

    590 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 19:02:14.94 ID:58HWYykmO
    数分後、第6監房――。

    柏木「えぇぇ?ちょっ、嘘ですよね?」

    通路を歩いていた看守に伝言を頼み、柏木を呼び寄せた板野達は、宮澤の様子を伝えた。
    半信半疑の柏木だったが、いざ宮澤の姿を目の前にすると、表情を曇らせた。

    柏木「どうして…佐江ちゃん…」

    柏木は口元を手で覆うと、その場に崩れ落ちた。
    許せなかった。
    宮澤をこんなふうにした奴が。
    自分達を監禁して、ここまで追い詰めた奴を、本気で憎いと思った。
    温厚な柏木の中に、初めて憎悪の炎が燃え上がる。

    591 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 19:04:24.71 ID:58HWYykmO
    板野「……」

    一方板野は、柏木の反応に、罪悪感を持たずにはいられなかった。
    みんなのため、脱獄のためとはいえ、宮澤をダシに使ったこと。
    そしてそのために、柏木を悲しませてしまったこと。

    ――ここから出たら、2人に謝ろう…。

    板野はそう心に誓った。

    柏木「どうしたらいいですか?あたし…何をしたらいいですか?」

    ようやく最初の衝撃から抜け出してきた柏木が、珍しく強い口調で問いかける。
    板野はそんな柏木に、脱獄の計画を話して聞かせた。
    話に耳を傾けるうち、怒りに満ちていた柏木の目が、すっと覚めていく。
    板野はその変化に驚いた。

    ――これってまさか…。

    593 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 19:06:27.98 ID:58HWYykmO
    そう、それはまさしく、ブラックの目だった。
    怒りや憎しみを内に秘め、冷酷さを露にした目。

    柏木「あたし…何でもしますから…」

    柏木は本心からそう宣言した。

    ――やってやる。佐江ちゃんのためだったら、どんなルールも破ってやる…。

    柏木は悲しみを怒りに変え、そしてそれさえも超越した悟りの域に入った。

    柏木「もう怖いことなんてありません」

    こうして柏木は、脱獄計画に協力することを誓った。

    594 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:07:16.60 ID:G6QBJFYg0
    《16日目》

    米沢「ともちん…これ…」

    夕食の時間、第13監房までやって来た米沢は、ワゴンからこっそり白い棒を差し出した。

    板野「?」

    首を傾げる板野に、米沢は数本の棒を無理やり握らせる。

    米沢「昨日ゆきりんから聞いたよ。脱獄、協力してくれるんだってね。それで瑠美も何か出来ないかって探してみたんだけど、やっぱりはしごは見当たらなくて…」

    板野「そっか…ゆきりんもそうなんだよ。はしごは見つからなくて…で?この棒何?」

    米沢「つっぱり棒!これで下へ降りるための足場を作れないかと思って」

    板野「え?そっか、管は狭いし、長さ的にもこれだったらもしかして…」

    米沢「うん」

    板野「ありがとう、米ちゃん」

    板野はきゅっと口角を上げ、米沢を見上げた。
    米沢が照れくさそうな笑顔を浮かべる。

    595 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:08:05.54 ID:G6QBJFYg0
    米沢「他にも何かあったらいつでも言って。直接話すには配膳の時くらいしかチャンスはないけど、今度からゆきりんに伝言を頼んでくれたら瑠美に伝わるから」

    板野「そっか、看守なら自由に厨房にも顔を出せるんだもんね」

    米沢「うん。あ、じゃあ行くね」

    板野「うん、また…」

    米沢が去った後、板野はこぼれる笑みを抑えきれず、つっぱり棒に目を落とした。

    ――これで下に下りることができる…。そうしたら何か脱獄の道が見つかるかもしれない…。

    ひとりニヤニヤする板野。
    それを、石田が無言で見つめている…。

    596 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:09:00.69 ID:G6QBJFYg0
    自由時間――。

    大島「よいしょっと…これでいいや」

    自由時間になり、晴れて3日間の懲罰房から解放された大島と秋元は、板野の計画を聞き、目を輝かせた。
    やはり懲罰房の中でも、脱獄の意思を失うことはなかったようで、板野はほっと一安心する。
    小柄で運動神経のいい大島が第7監房の壁から管の中に入り、つっぱり棒で足場を作ると、ついに下へ降りる準備が整った。

    大島「誰が先に行く?」

    大島が第7監房に集まった面々を見回す。

    板野「あたしが行く」

    板野が一歩前に出た。

    大島「わかった、お願い」

    大島が道を開けると、板野はその小さな体を管の中へ押し込んだ。
    中はもちろん暗い。
    しかし上から大家と亜美が光を入れてくれているお陰で、なんとか足元を確認することができた。
    大島の準備は完璧で、足をかけてもつっぱり棒が外れることはない。
    こうして板野ははしごを使う要領で、するすると下へ下りていく。
    案外早くに、地面に足が付いた。

    板野「……」

    辿りついたその部屋は、やはり板野の予想通りだった。

    597 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:09:38.49 ID:G6QBJFYg0
    高橋「ひぇぇぇ、本当に洗濯部屋になってたんだね」

    後から下りて来た高橋が部屋の中を見て、驚きの声を上げる。
    板野は気がついて、洗濯機のスイッチを入れた。
    もしかしたらこの部屋も盗聴されているかもしれない。
    洗濯機が作動していれば、その音で自分達の声はいくらかかき消されるはずだ。

    高橋「でもやっぱり、窓はないねぇ…」

    板野「うん」

    そのままゆっくりと部屋の中を観察していく。
    通路に出るためのドア、それからその左手の壁の向こうに、料理係の部屋があるはずだ。
    だとしたらここから脱獄するには――。

    板野「よし、掘ろうよ」

    板野は決断した。
    窓がないから出られない。
    鍵がかかってるから出られない。
    もうそんなこと言ってられる状況でないことは明らかだった。
    出口がないなら作ればいい。

    ――ここは角部屋…だとしたらこの壁の向こうは必ず外に繋がっている。

    598 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:10:30.96 ID:G6QBJFYg0
    作戦はシンプルだ。
    壁に穴を掘って外へ出る。
    原始的だが、これが一番確実な気がした。

    高橋「えぇぇ?それマジで言ってんの?」

    高橋が苦笑いを浮かべる。
    板野が冗談でも言っていると思いこんでいるのだろう。

    板野「うん。あたしはいつも本気だよ」

    高橋「だけど…」

    板野「最初の頃とは違う。米ちゃんやゆきりんもそうだし…まゆゆとなかまったーも協力してくれてる。それにしいちゃんと亜美ちゃんにも話は通ってる。優子と才加も戻って来た。人数なら充分だと思う。みんなで協力すれば、すぐに穴は掘れるよ」

    板野の言葉を、高橋は半信半疑で聞いていた。
    本当にそんなこと可能だろうか。
    道具も何もなく、穴を掘るなんて――。
    それに、穴を掘っている間は、看守にそれを発見されないための策を練らなければいけない。
    板野はすでに方法を見つけているのだろうか…。

    599 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:11:19.52 ID:G6QBJFYg0
    大島「あたしは賛成!何のための仲間なの?1人じゃ無理なことも、みんなで団結すれば乗り切れる。こういう無理な状況に立ち向かうために、あたし達は一緒にいるんじゃない!」

    遅れて地下に下りて来た大島が、そう言って高橋の腕を取った。

    大島「でしょ?あたしが今言ったこと、たかみなが教えてくれたことなんだけど」

    高橋「優子…」

    そして高橋は思い出す。
    辛いとき、苦しいとき、隣にはいつもメンバーがいた。
    つい1人で何でも抱え込みがちな高橋を、陰でそっと支えてくれていたのは…メンバーだ。仲間だ。
    どんな問題も、みんなで励ましあって乗り切ってきた。
    だからきっと、今回も――。

    高橋「うん。ごめん優子…あたしすっかり忘れてたよ」

    大島「いいよ。さ、どうする?ともちゃん。もう作戦は出来てるんでしょ?」

    大島が明るく仕切り直す。
    つい先ほど懲罰房から出てきたばかりとは思えない笑顔だ。

    板野「うん、掘るならやっぱり、こっちの壁かな」

    板野が指差したほうの壁には、大型の洗濯機が2台並んでいる。

    600 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:11:42.97 ID:G6QBJFYg0
    大島「え?でもそっちは洗濯機があるし、ほらほら、こっちだったらこの棚を移動させるだけで穴が掘れるよ」

    大島が指摘すると、板野はふるふると首を振った。

    板野「ううん、違うの。だってそれだと、穴が空いてるのが看守にバレちゃうでしょ?でもこっちなら、掘った穴を洗濯機で隠せるよ」

    大島「あ、そっか」

    板野「うん。でもいちいち洗濯機をどかして穴を掘って、夜にはまた元に戻して…面倒だけどね」

    板野はそう言うと、苦笑いを浮かべた。

    高橋「や、やるよ!面倒でもなんでも、ここまで来たらやるしかないじゃん!」

    俄然張り切りだした高橋を見て、板野は自分の決断が間違っていなかったことを確信する。

    ――大丈夫、みんながいれば今度こそ脱獄できる…。

    板野の心は、期待で高鳴った。

    板野「とりあえず1度、上に戻ろうよ。詳しく作戦を練らないと」

    601 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:12:17.30 ID:G6QBJFYg0
    第7監房――。

    板野「まずは穴を掘るための道具を探さなくちゃ。これはゆきりんにお願いして探してもらう。あと、ゆきりんには洗濯の係をかって出てもらわないといけないかも」

    一度上に戻った板野は、待ちかねていたメンバー達を前に、作戦を説明した。

    渡辺「ゆきりん大変だね」

    板野「堀り途中の穴は洗濯機で隠すけど、念には念を入れて、他の看守の子を洗濯部屋に近づけないようにしたほうがいいと思うから」

    渡辺「うん」

    小嶋「あ、ゆきりん連れて来たよー」

    渡辺が頷いたとき、小嶋と柏木が監房にやって来た。

    秋元「あれ?早かったね」

    小嶋「うん、看守の子見当たらなくて伝言頼めなかったから、直接看守の部屋まで行ってゆきりん呼んできた」

    高橋「え?にゃんにゃん看守の部屋行っちゃったの?」

    小嶋「?いけなかった?」

    高橋「看守の部屋って囚人は立ち入り禁止区域だよ。指示もないのに近づいたら…」

    小嶋「うーん、でも大丈夫みたいだったから、いいんじゃない?」

    小嶋はあっけらかんとした様子でそう言い放つと、板野に話を促した。
    板野が考えたばかりの作戦を、柏木に説明する。
    柏木はすぐさま穴を掘るための道具を探しに、監房を飛び出した。

    602 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:12:44.85 ID:G6QBJFYg0
    数分後――。

    柏木「はぁ…はぁ…」

    よほど急いだのか、顔を真っ赤にして監房に戻って来た柏木は、持ってきた道具をベッドの上に広げた。

    柏木「とりあえずこれだけ…もっと時間があれば他に見つかるかもしれないけど」

    秋元「え?これ何?」

    秋元が訝しげにベッドの上の道具を拾い上げる。

    柏木「さぁ、よくわかんないけど、調理器具であることは間違いないかと…。全部米ちゃんに言って貸してもらったんです」

    柏木が首を傾げる。

    指原「なんか見たことない道具」

    仁藤「あ、それじゃがいも潰すための道具だよ」

    指原「へぇ~」

    指原は秋元の手に握られた調理器具を、しげしげと眺めた。
    他にもベッドの上には、お好み焼き用のヘラやケーキのデコレーション用ナイフが置かれている。

    603 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/28(火) 19:13:08.74 ID:G6QBJFYg0
    柏木「なるべくステンレス製の…丈夫なものを選びました」

    板野「うん、ありがとう。急かしちゃったみたいでごめんね」

    柏木「大丈夫。佐江ちゃんのためだもん」

    秋元「え?」

    渡辺「え?」

    柏木「え?あ、ううん、みんなのためだよ、そう、みんなの…」

    柏木は慌てて訂正した。

    板野「よし、じゃあもう一度みんなで下に降りて、穴を掘ろう。自由時間終了まであとちょっとしかないけど」

    高橋「よっしゃ」

    高橋は気合を入れると、ヘラを手にした。

    柏木「じゃああたしは他の子達に怪しまれないうちに、看守の部屋に戻りますね」

    柏木が出て行くと、指原が見張りに付き、板野達は再び洗濯部屋に下りて行った。

    605 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 19:19:55.37 ID:viWbp3XB00
    ツッパリ棒一つでそんなに簡単に移動できる構造なのかw

    606 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 19:32:00.51 ID:inAo7tBc0
    看守が脱出すればいいんじゃね?

    615 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/28(火) 20:35:18.51 ID:58HWYykmO
    1です。
    支援ありがとうございます。
    まだ寝る前にちょこっと書くかもしれないけど、今日はひとまず終わりだと思います。
    明日午前中バイトだから午後から再開します。
    明日こそ完結できるように頑張る!
    読んでくださってる方、ありがとうございました!

    620 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 21:26:20.80 ID:4d+ouxzN0
    >>615
    面白い

    617 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 20:44:38.94 ID:L0x67E6l0
    >>615
    乙です
    楽しみにしてます

    637 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/28(火) 23:25:08.80 ID:pHtNl07+0
    これってなんかの映画とかモデルになってる?

    647 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 01:07:52.60 ID:pTYf6h1y0
    >>637
    多分esって看守と囚人にわかれて実験する映画っぽい
    脱獄のとことかは個人的にプリズンブレイクのイメージで読んでる

    681 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:16:12.79 ID:61U0jH2U0
    自由時間終了間際――。

    指原「早く戻ってこないと点呼の時間になっちゃうよぉ…」

    指原はそわそわと、監房の中を歩き回った。
    直後、下から板野達が戻って来る。

    大島「結構掘れたよ。最初の段階で壁を崩すのに手間取ったけど」

    大島が泥に汚れた顔で、清々しく言う。

    指原「うわぁぁ優子ちゃん顔拭いてください。もうすぐ点呼なのに」

    指原は慌ててタオルを差し出した。

    大島「ありがとう。あ、このタオル臭い」

    指原「ひぃぃすみません」

    指原が慌ててタオルを取り返そうとしていると、板野は深刻な顔でうつむいた。

    秋元「…ともちん?」

    板野「駄目だよ、全然駄目。掘る時間が少なすぎる」

    秋元「今日はまぁ足場作ったり、道具調達したりいろいろあったからね」

    板野「うん…でも、どうにかしてもっと穴を掘る時間を確保できないかな」

    秋元「無理だよ。もうすぐ点呼だし、そうしたら自分の監房に戻らなきゃ」

    板野「……」

    板野は残念そうに目を伏せた。
    その瞬間、思わぬ物が視線の先に映る。

    ――こ、これは…。

    682 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:17:28.82 ID:61U0jH2U0
    板野「さしここれ、ちょっと借りられないかな」

    板野は机に置かれたICレコーダーを手に取ると、指原に訊いた。
    昨夜、大家が指原に向けてメッセージ送ってきた時のものだ。

    指原「たぶん大丈夫だと思いますけど…え?どうしたんですか?」

    板野「うん、ちょっと考えがあるんだ」

    板野はそう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

    683 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:18:07.51 ID:61U0jH2U0
    点呼――。

    増田「遥香ー?」

    例によって行方不明の仲川を増田が必死に探す中、囚人達は1階の廊下に整列した。
    板野は石田の隣に並び、様子を窺う。

    仲谷「じゃあ点呼取っていきまーす」

    仲谷の美しい声が通路に響く。
    直後、列の前方が騒がしくなった。

    増田「遥香がまだ来んのよ」

    仲谷「えー?どうしましょう」

    増田「悪い、もうちょっと待っててくれへん?どこの監房にも人がおらんかったら、さすがに遥香も点呼やって気付くはずやから」

    仲谷「うん」

    仲谷が優しく目じりを下げる。
    板野は今がチャンスとばかりに、隣の石田に話しかけた。

    684 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:19:11.60 ID:61U0jH2U0

    板野「はるきゃん、ちょっと聞いてくれる?」

    石田「はい、なんですか?」

    石田はいつものクールな表情のまま答えた。

    板野「あのさ、ちょっとお願いできるかな?これにあたしの声を吹き込んであるんだけど…」

    石田「?」

    石田はそこで初めて、板野のほうに顔を向けた。
    そしてICレコーダーに気付き、訝しげに眉を寄せる。

    石田「何すかそれ」

    板野「これでもしもの時、あたしが監房にいるように偽装してほしいんだけど」

    石田「は?もしもの時って…」

    685 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:19:47.84 ID:61U0jH2U0
    板野「あたしは今日、さしこの監房で寝る。だけどあたしが自分の監房にいないとマズいでしょ?」

    石田「だったらなんでわざわざ囚人のルール破るんですか?」

    板野「どうしてもやらなきゃいけないことがあるんだよ」

    石田「?」

    板野「お願いはるきゃん」

    板野が頭を下げると、石田は何か言いたげに息を洩らした。

    石田「……」

    板野「……」

    石田「……12時と3時には気をつけてください…」

    しばらくして、石田がぽつりとこぼした。

    板野「え?」

    686 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:20:29.90 ID:61U0jH2U0
    石田「前にれいにゃんから聞いたことがあったんです。看守は毎晩12時と3時に監房の前を歩いて、中にちゃんと囚人がいるか確認しています。さっしーの監房で寝るなら、その時間は身を隠したほうがいいです」

    板野「はるきゃん…じゃあ…」

    石田「別にともちんさんのためだけじゃないです。ただ、あたしはともちんさんが正しいことをしようとしてると信じてる。ともちんさんの目を見ればわかる。あたし、偽善は嫌いだけど、正しいことは…好きなんです」

    石田はそう言うと、板野からICレコーダーを受け取り、ポケットに忍ばせた。
    タイミングよく、仲谷が点呼に回ってくる。
    どうやらいつの間にか、仲川も点呼の列に加わったらしい。

    ――これでまだ、穴堀りを進められる…。あとは明日の朝の点呼をゆきりんにやってもらえば、他の看守にバレずにあたしは自分の監房に戻れる…。

    板野はそう考え、少し離れた場所に立つ大島へ視線を送った。
    大島もまた、目配せをしてその視線に答える。
    柏木への伝達は、大島が行う手はずになっていた。

    687 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:21:20.69 ID:61U0jH2U0
    午前12時、第13監房――。

    石田「……」

    浅い眠りから目覚め、石田はハッと息を呑んだ。
    看守の足音が近づいてくる。
    見回りの時間なのだ。
    石田は枕の下からICレコーダーを引っ張り出すと、胸の前で握りしめた。
    手探りで、再生ボタンの場所を確かめる。

    ――お願いだから、何事もなく過ぎて…。

    しかし、石田の思いをよそに、看守の足音が監房の前で止まった。
    こちらの様子を窺っているような気配が漂ってくる。
    石田の胸は、緊張のため早鐘を打った。

    ――誰なの…?

    布団を被り、寝たふりをしている石田からは、看守が誰なのか確認することができない。
    やがて、ささやき声が石田の耳に届いた。

    篠田「……寝てるの?」

    ――篠田さんだ…!

    688 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:22:06.59 ID:61U0jH2U0
    石田はさり気なく寝返りをうった。
    篠田がふっと息を吐く音が聞こえてくる。

    ――お願い、早く行って…!

    しかし篠田はまだ、その場にとどまっていた。
    怪しいところなんて何もないはずだ。
    板野のベッドは、人が寝ているように見えるよう、細工してある。
    ぱっと見では、布団のふくらみに不自然な点などない。

    篠田「…ともちん?」

    篠田が再び、ささやき声を洩らす。
    石田はそっと、再生ボタンを押した。

    『…んっ…ふぅ…』

    ICレコーダーから、板野のリアルな息遣いが流れた。

    篠田「なんだ、寝てるのか」

    篠田は納得したようで、次の監房へと移っていく。
    布団の中で、石田は密かに安堵の息をついた。

    689 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:22:55.71 ID:61U0jH2U0
    一方その頃、第7監房では――。

    指原「篠田さん行きましたから、もう出て来て大丈夫ですよ!」

    指原は洗濯室に向かって声を落とした。
    少しすると、手を泥だけにした板野が上がってくる。

    指原「大丈夫ですか?今日はもうこの辺にして、そろそろ寝たほうが…」

    いつもきれいなネイルアートで彩られていた板野の手が、今は見る影もない。
    艶々の髪も乱れ、汗ばんでいた。

    指原「明日になればまたみんなで穴堀りできますよ…」

    指原は板野を休ませようと、早口で喋った。
    しかし板野はそれを受け入れようとはしない。

    板野「ごめんね、あともう少しだけ…」

    指原「でも、今無理したらともちんさんの体が…」

    板野「あたしなら大丈夫。こう見えて結構体力あるから」

    指原「でも…」

    691 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 13:26:40.91 ID:bz+qZL1eO
    板野は指原から目を離し、島崎のベッドを見やった。
    そこには今、誰も寝ていない。
    体調を崩した島崎は、いまだ看守の部屋の隣にあるスペースから出てこられないでいた。

    板野「ぱるる…大丈夫かな…」

    指原「え?ぱるるですか?」

    板野「あたしはなるべく早く脱獄したいと思ってる。佐江ちゃんもそうだけど、ぱるるも…早くここから出してちゃんと病院で看てもらったほうがいいよ」

    指原「そうですよね…」

    板野「だからもうちょっとだけ頑張る!」

    板野はそう言うと、再び地下へと降りていってしまった。
    残された指原は、また監房内をうろうろと歩き回る。

    ――ぱるるもここにいてくれたら、一緒に脱獄できるのに…。

    指原は祈るように、天井を仰いだ。


    692 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 13:29:19.82 ID:bz+qZL1eO
    《17日目》

    柏木「はぁ…面倒臭い…」

    いくら宮澤のため、みんなのために脱獄に協力すると言っても、洗濯は苦痛だ。
    柏木はため息まじりに洗濯機を操作した。

    柏木「あ、あれ?動かない…」

    しかし、日頃洗濯機に触れることすらしない生活を送っている柏木にとって、洗濯機は未知の機械。
    なんとなく操作してみたけれど、まったく動いてくれない。

    ――どうしよう…。みんなにはあたしが洗濯するって宣言しちゃったのに…。

    その時、背後でドアの開く音がして、誰かが洗濯部屋に入って来た。

    片山「どうー?ちゃんとできた?」

    柏木「あ、はーちゃん!ちょうど良かった、これどうやって動かしたらいいかな?」

    柏木は天の助けとばかりに、片山へ泣きつく。

    694 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 13:31:36.52 ID:bz+qZL1eO
    片山「スイッチ入れればいいんじゃない?」

    柏木「スイッチってどこ?」

    片山「わかんない。片山、二層式洗濯機なら使えるんだけど」

    柏木「ちょっ、昭和?」

    片山「?あぁもう、適当に押したら動くんじゃない?」

    柏木「えぇー?」

    柏木は信じられないものでも見るかのような目つきで、片山を見つめた。
    片山は半笑いで肩をすくめている。

    ――はーちゃんに訊いたあたしが馬鹿だったわ…。この人、機械全般使えないのよ。

    自分のことは棚に上げ、柏木が呆れていると、運良く中田がやって来て、手早く洗濯機を操作した。

    696 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 13:35:12.45 ID:bz+qZL1eO
    中田「もう2人して何やってんの」

    柏木「ごめんなさい…」

    中田「なんでゆきりん洗濯機触ったことないのに、突然洗濯係なんてかって出たの?」

    中田が不思議そうに尋ねる。

    柏木「あ、あ、えーっと…花嫁修業でもしようかなーっと…」

    中田「ふぅん、先が思いやられるねぇ…」

    中田はそれ以上の疑問を持つことなく、あっさりと納得した。
    柏木はほっと安堵の息をつく。

    片山「さ、今みんなでテニスゲームやってるから、ゆきりん次、片山と対戦しよっ!」

    柏木「へぇー、はーちゃんコントローラーの使い方わかるんだ?」

    3人で並んで洗濯部屋を後にする。
    ドアを閉める時、柏木はふっと洗濯機のほうを振り返ってみた。
    あの後ろに、外へと繋がる穴が隠されている…。

    697 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 13:38:51.57 ID:bz+qZL1eO
    自由時間――。

    『本日懲罰房行きとなる囚人が決定しました。第9監房の仲俣汐里さん、これから看守が迎えに行きます。監房から出ずにお待ちください』

    仲俣が懲罰房へ連れて行かれ、板野達の間に重苦しい空気が流れた。
    しかし、落ち込んでいる時間はない。
    今はとにかく、脱獄のための穴を完成させなければ。

    大島「仲俣ちゃんは明日には戻ってくるし、一緒に脱獄はできるよ」

    大島がみんなを励ます。

    大島「萌乃ちゃん、仲俣ちゃんに耳栓届けてあげてくれる?」

    仁藤「え?」

    仁藤はびくりと肩を震わせ、視線を泳がせた。

    板野「?」

    698 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 13:41:08.58 ID:bz+qZL1eO
    仁藤「じ、実は…作った耳栓全部、壊れちゃったんです…」

    高橋「えぇぇぇ?」

    仁藤「夜なかなか寝付けない子とかに耳栓貸してあげてて、それで、昨日あきちゃが耳栓を握り締めて…粉々にしちゃったみたいで…」

    指原「え?あきちゃ何してくれてんのよ」

    大島「全滅?確かあたしと才加が使ってた他に、もう1組あったよね?」

    仁藤「はい…。あ、たぶんあきちゃ本人はそんなに力入れたつもりはないと思うんだけど…」

    大島「じゃあ仲俣ちゃんは…」

    仁藤「…すみません…」

    仁藤はしょんぼりと肩を落とした。


    699 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 13:43:10.72 ID:bz+qZL1eO
    高橋「仕方ないよ。悪気があってしたことじゃないんだし」

    仁藤「……」

    板野「なかまったーには耐えてもらって、脱獄の時はみんなで支えになってあげようよ」

    大島「うん、そうだね」

    大島はそう言うと、するすると地下へ下りてしまった。

    高橋「よし、あたし達も行こう」

    高橋の声を合図に、残りのメンバーはそれぞれの道具を手に取った。

    700 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 13:53:04.97 ID:61U0jH2U0
    その夜遅く――。

    島崎「指原さん、ご心配おかけしました」

    監房に戻って来た島崎を見て、指原は思わず涙ぐんだ。

    指原「ぱるる!もう体は大丈夫なの?無理してない?」

    島崎に駆け寄り、セクハラのようにその細い体をベタベタと触る。
    島崎は困ったように笑いながら、指原にされるがままになっていた。

    指原「本当に心配したよ」

    島崎「ごめんなさい…」

    指原「でも良かった」

    指原はそう言って笑顔になると、きょろきょろと辺りを見回した。

    指原「えっと、看守は?ぱるる1人で戻って来たの?」

    島崎「いえ、みなるんに連れて来てもらったんですけど、鍵を開けたらすぐ行っちゃいました」

    指原「よし、じゃあ大丈夫かな」

    島崎「?」

    704 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 14:05:12.88 ID:bz+qZL1eO
    指原「実はぱるるがいなかった間に、なんとこの部屋から外へ脱獄できるようになりました!」

    指原は妙なポーズを作ると、もったいぶった調子で発表した。

    島崎「……」

    しかし、喜ぶと思った島崎は無表情のままだ。

    指原「え?ぱるる?」

    島崎「あ、ごめんなさい。ちょっとびっくりしすぎて」

    指原「良かった。指原はてっきり、ぱるるが嬉しすぎて魂抜けちゃったのかと思ったよ」

    島崎「…はい」

    指原「みんなでここから脱獄するんだよ」

    島崎「みんなって…?どうやって脱獄するんですか?」

    不思議そうに首を傾げる島崎に、指原は今までの経緯を説明する。
    はじめは要領を得ない様子だった島崎も、次第に呑みこめてきたのか、笑顔を取り戻した。

    島崎「いつですか?いつ脱獄するんですか?」

    指原「それはねぇ…明日だよ!」

    指原はVサインを作ると、にんまりと笑った。

    705 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:06:24.97 ID:61U0jH2U0
    《18日目》

    米沢「ともちん、これ…」

    夕食の配膳時、米沢がこっそり差し出したのは包丁だった。

    板野「え?これ何?」

    板野は驚いて、思わず身を引いた。

    米沢「あ、ごめん。これ、持っててほしいんだ」

    板野「どうして?」

    米沢「ここから外へ出られたとしても、その先にどんな危険があるかわからないでしょ?もしもの時のために、身を守るものを持っていたほうがいいと思って」

    米沢はなぜか言い聞かせるように説明した。
    板野がおそろく、包丁をすぐには受け取らないであろうことはわかっている。
    しかし、米沢はどうしても持って行ってほしかった。
    脱獄に協力したはいいが、その結果、外に出た板野達が危ない目に遭ったのでは、やりきれない。
    一度は自分がきちんとドアにストッパーをしておかなかったために脱獄が失敗し、大島と秋元が懲罰房へ入れられるという事が起きたのだ。
    米沢はこの時、自分を激しく責めた。
    もう二度と、あんな思いはしたくない。

    706 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:08:02.85 ID:61U0jH2U0
    板野「こんなの…持ってられないよ」

    板野はやはり、困ったように包丁を突き返す。
    しかし米沢は諦めなかった。

    米沢「瑠美は一緒に脱獄できない。だったらこれを、瑠美の代わりに持って行ってほしいの。そうすることで、みんなと一緒に行動している気になれる。お願い、ともちん」

    米沢の必死の懇願に、渋々板野は包丁を受け取った。

    板野「でも…なんであたしなの?優子とか才加のほうが…」

    米沢「ううん、ともちんのほうがいい。ともちんはきっと、これをうまく使うよ。自分のためじゃなく、みんなを守るために使うよ。瑠美、そう信じてる」

    板野「米ちゃん…」

    米沢の言葉に、板野は責任を感じながら包丁を見つめる。
    確かに、手ブラで脱獄するよりは、いざという時安心な気がした。
    米沢への感謝の気持ちをこめて、板野は包丁をそっと枕の下に隠す。

    707 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:08:40.78 ID:61U0jH2U0
    米沢「で?いつ決行?」

    板野「今日だよ」

    米沢「頑張ってね。ともーみちゃん達ももう疲れが限界なんだ。早くここから解放してあげて」

    板野「うん」

    板野は強い目で、米沢を見つめた。

    ――絶対に今度こそ、脱獄してみせる…。

    708 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:09:41.74 ID:61U0jH2U0
    自由時間――。

    板野「用意はいい?」

    板野は第7監房に集まった面々を見渡回し、確かめるように問いかけた。
    一同が思い思いに頷きを返す。

    仲俣「…あっ…」

    しかし仲俣は、ふらつく体を支えきれずに、秋元に倒れ掛かった。

    秋元「ちょっ、大丈夫?」

    仲俣「すみません…でもあたしやっぱり…」

    大島「耳をやられてるんだね?」

    仲俣「はい…」

    仲俣が力なく頷く。
    それから、決めていたことを打ち明けた。

    709 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:12:16.77 ID:61U0jH2U0
    仲俣「あたしやっぱり、ここに残ります」

    板野「え?」

    高橋「大丈夫だよ。あたし達がサポートするから、一緒に逃げよう。ここまで一緒に頑張ってきたじゃない!」

    仲俣「…いいえ…。あたしはやっぱり、皆さんの足手まといにはなりたくないんです」

    仁藤「そんな足手まといだなんて…」

    仲俣「それに、あたし懲罰房の中で考えてきたんです。宮澤さんもこの脱獄計画の仲間ですよね?でも体があんなで…皆さんと一緒には逃げられない」

    仲俣「だったらあたしもここに残ります。残って、皆さんがいなくなって不安な宮澤さんの、力になりたいんです」

    板野「なかまったー…」

    仲俣「いいですよね?これで。一緒に逃げないからといって、あたしは変わらず、皆さんの仲間だと思ってます」

    仲俣はいつになく強い口調でそう言うと、涙ぐみながら懸命に顔を上げていた。
    そんな仲俣の肩を、秋元が力強く叩く。
    痛くないといえば嘘になるが、仲俣はぎゅっと歯を食いしばり耐えた。

    712 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:17:50.14 ID:61U0jH2U0
    秋元「わかったよ。じゃあ佐江ちゃんを…頼んだよ」

    仲俣「はい…」

    板野「じゃあ…そろそろ行こうか…」

    宮澤と仲俣を残していくことに後ろ髪を引かれながら、板野がそっと切り出した。

    高橋「うん!」

    小嶋「はーい」

    こうして板野、高橋、大島、秋元、小嶋、渡辺、指原、仁藤、島崎の9人は、地下へと降りて行った。
    上の監房では、やはり大家と亜美が光が通るよう計らってくれている。
    米沢と柏木の協力もあって、ここまでこぎつけることができた。
    たくさんのメンバーに支えられながら、一同は外を目指す。

    713 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:18:58.24 ID:61U0jH2U0
    一方その頃、厨房では――。

    河西「なんか…ずいぶんすっきりしちゃったね…」

    河西は呆然とした表情で、厨房を見渡した。
    竹内もその隣で、傷だらけの手を擦りながら、困惑している。

    米沢「ごめん、このほうが使いやすいかと思って」

    河西「うん、あたしも衛生的にはこのほうがいいと思うけど…」

    河西は遠慮がちにそう言った。
    なんとなく、少し前から米沢が厨房の模様替えしていることは知っていた。
    以前は上から吊るされていた調理器具が引き出しに詰め込まれていたり、鍋がシンクの下に仕舞われていたり。
    ほこりや油が飛ばないので衛生的であることに間違いはないが、なんとなく、すぐ手の届くところに物が置かれていないのは、寂しい感じがする。

    ――それに、前より調理器具の数が減ったような気がするんだよね…。気のせいかな…。

    河西は引き出しの中を覗いて、首をかしげた。

    714 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:20:16.32 ID:61U0jH2U0
    篠田「あ、良かった。まだ洗い物間に合う?このお皿、夕食の時に下げ忘れちゃって…」

    その時、篠田が厨房の中に入って来た。
    手に数枚の皿を乗せている。

    河西「あ、うん、大丈夫だよ」

    河西は慌てて引き出しを元に戻すと、篠田へ駆け寄った。
    篠田は皿を手にしたまま、驚いたように厨房を見回している。

    篠田「びっくりした…厨房、模様替えしたんだね」

    河西「うん、米ちゃんがいろいろ片付けてくれて…」

    篠田「すごいじゃん!今度陽菜の部屋も片付けてあげてよ」

    米沢「あはは、それは瑠美でも無理です」

    篠田「だよねぇ…」

    716 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:20:52.62 ID:61U0jH2U0
    それから篠田は少しの間料理係と雑談を交わし、看守の部屋へ戻っていった。

    ――今頃はみんな、脱獄している頃かな…。

    篠田が出て行った後、米沢はみんなの成功を願いながら、皿を洗う。

    竹内「あ、米沢さん、ごみ捨ての時間までにごみまとめちゃいましょうか?」

    米沢「うん、お願い」

    この厨房で作業をするのもあと少しだ。
    もうすぐ、自分達はこの監禁生活から解放される…。

    河西「……」

    そして、どこか思いつめた様子の米沢の姿を、河西は無表情に見つめている。

    717 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:23:02.08 ID:61U0jH2U0
    一方篠田は――。

    篠田「なんか…嫌な予感がする…」

    厨房を出た篠田は、ひとり通路を歩きながら、考えた。

    ――何か引っかかる…。ここのところ、ちょっとおかしなことが続いてるし…。

    ただの偶然かもしれない。
    そう思ったけれど、篠田の不安は消えることがなかった。
    妙に片付いた厨房の様子。
    確か、前に来た時はつっぱり棒から調理器具を吊るしてあったはずなのに。

    ――それから気になるのはゆきりんの変化…。

    今になって急に、柏木が洗濯係を買って出たのはどうしてだろう…。
    洗濯物を畳むのでさえ、あれほど面倒臭がっていたのに…。

    ――そしてこれは、気のせいだといいんだけど…。

    719 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 14:29:41.99 ID:bz+qZL1eO
    篠田の頭に残るのは、一昨日の深夜に聞いた板野の声だった。
    深夜の見回りをしていた時、なんとなく第13監房に違和感を持った。
    だから、監房の中で眠る板野に声をかけてみた。
    そしてあの時、返ってきた板野の声に、不自然さを感じた。

    ――あれは間違いなくともちんの声…。でも、なんでだろう?あの声は…。

    そう、生々しさがなかったのだ。
    睡眠を中断させられた人間特有の無防備な感覚が、板野の返事にはなかった。
    あれはまるで、あらかじめ用意されていたかのような声。
    これは確信ではなく、ただの勘にすぎないが、本当はあの時――。

    篠田「ともちんは監房の中にいなかった…?」

    口に出してみると、途端に現実味を帯びて響くのはどうしてだろう。
    篠田はますます、自分の考えが当たっているような気がしてきた。
    そう、あの時板野は監房の中にいなかったのだ。
    あれはたぶん、石田が何かの方法で、板野が監房に中にいると細工したのだろう。
    だとしたら、板野は一昨日の晩、どこにいたのか――?

    篠田「まさか…」

    篠田は呟いた直後、床を蹴った。
    看守達のもとへ走り出す。

    721 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:36:16.20 ID:9bqE1a1P0
    篠田さん勘いいな

    722 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 14:37:35.12 ID:bz+qZL1eO
    一方その頃、板野達は――。

    板野「全員いるよね?」

    洗濯部屋にたどり着くと、板野は小声になり、仲間達の顔を確認した。
    一同は神妙な面持ちで頷く。

    秋元「……」

    秋元が無言で洗濯機をずらし始めた。
    その様子を見守りながら、板野はごくりと唾を呑む。

    ――いよいよだ…。外へ出られるんだ、あたし達…。

    洗濯機の裏には外へと続く穴が、自分達を待ち構えてくれている。
    みんなで協力し、必死に掘った穴。
    看守達に気づかれないよう一心不乱に掘った穴。
    ネイルが剥がれることも、爪の間に泥が入ることも、髪が乱れることも気にせず、ただただここから解放されることを夢見て掘った。
    それが必ず、自由に繋がっていると信じて――。

    高橋は弱気になる自分を何度も奮い立たせ、リボンが汚れることも厭わなかった。
    大島は小柄な体をうまく使い、狭かった穴に身を入れてどんどん拡大してくれた。
    秋元は硬く歯が立たなかった壁を最初に壊し、その後の作業をやりやすくしてくれた。
    渡辺は前髪が崩れることすら忘れて、文句も言わずひたすら穴を掘り進めてくれた。
    小嶋は特にこれといって活躍してくれなかったが、傍にいてくれるだけで場を和ませた。
    仁藤も指原も、本当に良くやってくれたと思う。
    そして宮澤のために残ることを決めた仲俣の勇気と思いやり。
    一度は脱獄を決意し、失敗したにもかかわらず、希望を捨てず計画に乗ってくれた島崎。

    ――必ずみんなで脱獄して、助けを呼びに行ってみせる。

    板野は緊張と仲間への感謝で、胸の詰まる思いだった。

    724 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 14:39:58.32 ID:eufAaFg20
    小嶋は活躍しなかったwシュールw

    725 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 14:41:07.05 ID:bz+qZL1eO
    大島「才加、早く」

    大島が待ちきれない様子で、秋元を急かす。
    一同は期待に胸躍らせ、秋元が洗濯機をずらすのを見つめた。

    秋元「それなら優子も手伝ってよ…えぇぇ?」

    その時、秋元が驚愕の声を洩らす。

    板野「どうしたの?」

    板野は秋元に駆け寄った。

    秋元「なんで…」

    秋元の背中越しに、板野はそれを見る。
    信じられなかった。
    自分の目を疑うという経験を本当にすることになるとは、思ってもみなかった。
    秋元がずらした洗濯機。
    その向こうにあるはずのもの。
    みんなで掘った自由への扉。
    だけど――。

    板野「どうして…」

    726 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 14:43:41.14 ID:bz+qZL1eO
    そこに穴はなかった。
    壁は塗り直され、完全に穴が塞がれていた。

    高橋「えぇぇ?なんで?なんでないの?昨日までは確かにここに…」

    高橋が震える声でささやく。

    秋元「塗り直されてる…てことは、誰かに穴の存在を気付かれたんだ」

    指原「でも洗濯はずっとゆきりんがやってくれてたみたいだし、看守は気付きようがないですよ」

    渡辺「うん」

    島崎「わたし達…これからどうするんですか…?」

    島崎が不安げに先輩達の顔を見る。

    727 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 14:45:56.30 ID:bz+qZL1eO
    小嶋「ゆきりんが裏切ったんじゃないの?」

    渡辺「そんなことないよ!ゆきりんは絶対そういうことしないよ!」

    高橋「確かに…まゆゆの言うとおりだ」

    大島「うん、それはない」

    仁藤「ていうか穴が塞がれてるってことは、脱獄もバレてたってことですよね?だったらあたし達ここにいるのまずくないですか?」

    仁藤が冷静に指摘したその時、管から何か落ちて来た。

    仁藤「え?」

    板野はそれを拾い上げる。
    小さな紙が折りたたまれている。
    広げると、そこにはこう書かれていた。

    『緊急の点呼がある。すぐに戻って』


    728 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 14:48:14.03 ID:bz+qZL1eO
    板野「点呼って…なんでこんな時間に?まだ自由時間の最中なのに…」

    それは様子を見ていた大家と亜美からのメッセージだった。
    紙を持つ板野の手が震える。

    大島「とにかく戻ろう!早く!」

    大島はそう言うが早いか、島崎の手を引っ張り、管を登らせた。
    島崎はのろのろと第7監房に戻り始める。

    高橋「急いで!」

    島崎「はい…すみません…」

    島崎のにぶい動きに苛立ちを覚えつつ、一同は点呼までに整列するため、来た道を急いだ。

    730 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:51:43.80 ID:61U0jH2U0
    1階通路――。

    篠田「これから点呼をはじめます」

    篠田は通路に整列した囚人達に向かって、そう宣言した。

    仲川「なんで今から点呼なのー?遥香びっくりしちゃったよー」

    仲川が無邪気に質問すると、篠田は困ったように苦笑いを浮かべた。

    篠田「今日は看守がみんな具合悪いみたいでね、早めに寝かせてあげたいから、いつもより早く点呼を済ませちゃうことにしたんだ」

    仲川「えー?大丈夫なの?誰?誰が具合悪いの?遥香お見舞い行ってもいい?」

    篠田「駄目だよはるごん、看守の部屋にはるごんは入れないんだよ」

    仲川「えー?」

    篠田の答えに、仲川は不満そうに口を尖らせた。

    731 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:52:27.36 ID:61U0jH2U0
    仲川「看守の子とは遊べないし、お菓子も自由に食べられないし…もうやだこんなの…」

    ぶつくさと言いはじめた仲川を、増田がてきぱきと慰める。

    増田「もうちょい我慢したら、みんなでここから出られるんやから…」

    仲川「はーい」

    仲川が黙ったところで、篠田は点呼を開始した。
    いつもは、ざっと人数を数えるだけだが、今日は1人1人顔を確認していく。

    ――まさかとは思うけど、誰か脱獄してるなんてことないよね…?

    しかし、囚人の列を見る限り、なんだかいつもより短いようが気がする。

    篠田「はい、ぱるるは…いるね」

    島崎「はい」

    篠田「で、次は…え?もう終わり?え?待って8人足りない…」

    気がついた途端、篠田の背すじに冷たいものが走った。

    ――どうして足りないの…?まさか本当に…。

    自分の勘は当たってしまったのだろうか。

    732 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:53:40.00 ID:61U0jH2U0
    篠田「陽菜がいない。それに優子とみなみ…え?8人は一体どこに?」

    篠田は柄にもなく焦り、囚人の列をもう一度確認した。
    やはり8人足りない。

    篠田「誰か、8人がどこに行ったか知らない?」

    囚人達に呼びかけるも、みんな困惑した表情で互いに視線を合わせるだけだ。
    その中で、仲俣はびくびくと動向を窺っていた。

    ――大島さん達…今はどこにいるの?なんでぱるるだけ戻って来てるんだろう…。

    助けを求めるように、大家と亜美のほうを見る。
    2人は仲俣の視線を受け、わからないとでも言うように、無言で首を振った。

    ――どうしよう…何かうまい言い訳を考えなきゃ…。この場をうまく治めないと…。

    仲俣が必死に頭を働かせはじめた時だった。

    734 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 14:59:28.31 ID:61U0jH2U0
    大島「ごめんごめん、すぐ見つかると思ったんだけど」

    大島が照れたような笑いを浮かべ、亜美菜の背後から顔を覗かせた。

    篠田「え?優子、隠れてたの?」

    大島「ごめん、ちょっと麻里子をからかってみた」

    篠田「もう、やめてよー。あれ?でも陽菜は?」

    篠田はわざと怒った表情を作り、大島を見た。
    それから気がついたように、辺りを見回す。

    小嶋「麻里ちゃん残念、あたしはここだよー」

    小嶋は横山の背後から、ふっと頭を出した。
    小嶋に続き、さっきまで点呼の取れなかった囚人達が、次々と顔を覗かせる。

    篠田「まさかみんなして隠れてたの?」

    高橋「そ、そうだよ!麻里子全然気付かないんだもん」

    高橋が焦ったように言う。
    額は脂汗でてかてかに光っていた。
    篠田はそんな高橋を疑わしそうに一瞥したが、特に何も指摘しなかった。


    735 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:00:30.67 ID:61U0jH2U0
    篠田「まぁいいや。これで全員点呼取れたし。でもこれからはこんなことやめてねー。あたしてっきり8人が脱獄したのかと思ってびびっちゃったじゃん」

    指原「だ、脱獄なんてそんな、あ、するわけないじゃないすか!ねぇ萌乃ちゃん」

    仁藤「うんうん」

    篠田「本当なの?萌乃ちゃん」

    仁藤「え?あ、はい」

    ――もう、何で篠田さんあたしにばっかり突っかかるんだろう…。

    篠田「信じていいよね?じゃあ今日はちょっと早いけど、もう監房に戻ってくれる?ごめんね」

    篠田はそう言うと、申し訳なさそうに監房のほうを手で示した。
    囚人達はぞろぞろと、それぞれの監房へ戻っていく。

    ――麻里子、何か気付いたみたいだけど、とりあえずは疑われなくて良かった。

    板野は監房へ向かって歩きながら、ほっと胸を撫で下ろした。
    直後、誰かに二の腕を突つかれる。

    板野「?」

    そちらの顔を向けると、仲川が人懐こい笑顔を浮かべて立っていた。


    737 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:02:37.40 ID:61U0jH2U0
    板野「ん?」

    仲川「ねぇねぇさっきのかくれんぼ?遥香もかくれんぼやりたい!」

    板野「うん、今度一緒にしよう」

    仲川「わーい。麻里ちゃんびっくりしてたよねー?」

    板野「そ、そうだね…」

    仲川は可愛いいけれど、今はそのお喋りに付き合っている余裕がない。
    板野は早く監房に戻って、作戦を練り直したかった。

    板野「あ、はるごん?なんかゴミついてるよ」

    板野はそこで気がついて、仲川の服についたゴミを取ってやった。

    仲川「あ、ありがとー」

    そのまま床に落としてしまうこともできたが、どんな時でもポイ捨ては許せない板野である。
    少し迷ったが、そのゴミをポケットに仕舞った。

    仲川「あ、有華待ってよー」

    運良くそこで仲川が増田のもとへ走り出したので、板野はその隙に自分の監房へ戻ることができた。

    738 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:03:29.56 ID:61U0jH2U0
    《19日目》

    第13監房――。

    板野「どうして穴が塞がれてたんだろう…」

    自由時間を迎え、第13監房に集まった面々は、昨日のことについて話し合った。

    大島「塞がれていたってことは、誰かに穴の存在を気付かれたってこと…だよね?」

    秋元「でもあれから看守が洗濯機の裏の穴について何か訊いてきたりとか、ないよね?」

    高橋「看守は気付いてないの?」

    板野「ううん、もしかしたら、気付いていてあえて何も言ってこないのかもしれない。今はきっと、誰があの穴を掘ったのか探っているんだと思う」

    指原「犯人探しですか?」

    板野「うん。大丈夫だと思うけど、もし看守から何か訊かれたとしても、脱獄がバレるようなことは言わないでね」

    仁藤「はい」

    仲俣「わかってます」

    昨日より耳の調子の良くなった仲俣が、真剣な眼差しで頷いた。

    仲俣「これから、どうするんです?」

    740 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:04:50.53 ID:61U0jH2U0
    板野「またあそこに穴を掘るのは危険すぎる。違う道を探すしかないよね」

    渡辺「あ、見取り図持ってきたよ」

    渡辺は慌てて、折りたたまれたスケッチブックのページをみんなの前に広げた。
    それからしばらく、一同は見取り図を前に、頭を悩ませた。
    洗濯部屋から出る方法が消えた今、残された道はどこにあるのか――。

    板野「難しいねぇ…」

    板野はため息をついた。
    みんな真剣な顔で、それぞれ考えを巡らせている。
    そんな中、小嶋だけは呑気に、隣に座る指原にちょっかいを出していた。

    指原「痛いですよ小嶋さん、やめてくださいよーもぉぉ」

    小嶋「アハハ、さっしー変な顔になってる」

    指原「もぉなんでわざわざ痣のあるところ押すんですかぁ」

    小嶋「だってさっしーのリアクション面白いんだもん」

    小嶋はにやにやと笑いながら、指原の腕についた痣を押している。
    そのせいで指原は考えに集中することができない。

    大島「ちょっとにゃんにゃんやめなよ。指原痛がってるじゃん」

    大島は指原に対して嫉妬にも似た気持ちを抱きながら、小嶋をたしなめた。

    741 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:06:12.42 ID:61U0jH2U0
    板野「さしこその痣、昨日管を通る時についたの?それとも穴堀りの時?」

    板野は指原の腕を見て、眉をひそめる。
    痣とはいえ、昨日失敗した脱獄計画でもし怪我でもしていたのなら、なんだかやりきれない。
    ここ数日の頑張りが、昨日ですべて無駄になってしまったのだ。

    指原「あ、これはほら、前に懲罰房に入れられた時についたんです」

    渡辺「あぁ、懲罰房の中真っ暗だもんね…右も左もわかんない」

    仲俣「本当に…怖かったです…」

    板野「そういえばもっちぃも前に、懲罰房の中でぶつけたとか言って、足に痣作ってたなぁ」

    板野は倉持の言葉をぼんやり思い出した。

    指原「え?もっちぃ電気点いてるのに?」

    指原が笑いをこらえた顔で問いかける。

    指原「意外に抜けてるんだなー」

    秋元「そこが可愛いんじゃない?」

    指原「そうですよねー」

    仁藤「あときれいな顔して中身は変態ってとことか」

    指原「ギャップ萌えだ」

    仁藤「?」

    指原の周りで無駄話が広がる中、板野はふと気がついた。

    743 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:07:47.80 ID:61U0jH2U0
    板野「ねぇなんでもっちぃだけ電気点いてるの?」

    指原「え?看守だからじゃないですか?前に梅田さんが懲罰房入れられた時も、1つだけ懲罰房から明かりが洩れてたんで」

    高橋「そっか、指原の監房からは懲罰房のドアが見えるんだった」

    指原「はい、そうなんです。もっちぃの時も梅田さんの時も、1つの懲罰房から明かりが洩れてるのが見えて…」

    小嶋「あー、なんかそれずるいねー。看守だけ暗闇じゃないなんて。優子達も懲罰房に入れられた時、真っ暗だったんだよね?」

    大島「うん。そうだよ。いいよねにゃんにゃんは、結局まだ懲罰房に入れられてないじゃん」

    小嶋「いいでしょー?」

    それからひとしきり看守と囚人の不公平さについて話した。
    やはり、ここから早く脱獄しないと、不満が募る一方だ。
    しかし、気持ちばかりが焦って、なかなか次の脱獄方法を思いつけない。
    お互い言葉には出さないものの、やはり一同には昨日の失敗のショックが響いていた。

    板野「……」

    板野は気分を変えようと、一度見取り図から目を離した。
    立ち上がり、両手をポケットに突っ込むと、その場をぐるぐると歩き回る。
    体を動かしながらのほうが、考えに集中できる気がした。
    しかし、思うようにアイディアは浮かんでこない。

    板野「…痛っ…!」

    その時、指先に何かが触れた。

    744 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:09:02.84 ID:61U0jH2U0
    高橋「?どうした?」

    板野「これ…」

    板野はそっとポケットから手を抜き出す。
    その手には、ぎざぎざとした種子があった。

    板野「なんだろこれ」

    そう言ってから、板野は思い出す。
    昨日仲川の服についていたゴミだ。
    結局ポケットに入れたまま、捨て忘れていたのだった。

    小嶋「なーに?それ」

    板野「わかんない」

    小嶋「えー?なんか気持ち悪いー!」

    小嶋が笑いながら言う。
    その隣で、大島がふいと眉を上げた。

    大島「あ、それオナモミだよー。懐かしー」

    板野「オナモミ?」

    大島「うん、ほらよく草むらを歩くと、服とか靴下に付いたりしなかった?くっつき虫とか言って、小さい頃友達と投げ合ったりしたなぁ」

    745 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:10:09.94 ID:61U0jH2U0
    小嶋「ねぇそれ貸してー?」

    小嶋が無邪気に板野に向かって手を差し出す。

    板野「え?気持ち悪いんじゃなかったの?」

    小嶋「うん。でも面白そうだからさっしーに向かって投げてみる。サプライズー」

    指原「小嶋さんそれ、予告しちゃってますから!サプライズじゃないですから!」

    小嶋「?ねぇともちん、それもう1個ないの?」

    指原「ひぃぃ」

    板野「え?もう1個?ちょっと待ってね…」

    板野はもう一度ポケットに手を突っ込み、中を探った。

    板野「えーっと、あ、これ!は…違うし…。もうないよ」

    小嶋「えー?そうなの?」

    高橋「あれ?それ何?」

    高橋は板野がたった今ポケットから取り出した紙に気がついた。

    746 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:12:58.80 ID:61U0jH2U0
    板野「あぁこれ?昨日しいちゃんと亜美ちゃんが点呼があるよって知らせてくれた時の紙。ポケットに入れたままだった」

    高橋「よく見たらそれ、ぷっちょの包み紙じゃん」

    板野「あ、ほんとだ。どうしたんだろ?」

    板野は見慣れたその包み紙をもう一度広げ、しげしげと眺めた。
    指原が気がついて、目を見開く。

    指原「あぁそれそれ!たぶんそれ指原のです」

    板野「あ、さしこのだったんだ?」

    指原「たぶんしいちゃん達、指原の監房からその紙を落としたんじゃないですかね?咄嗟に目に付いて、メモ用紙代わりに使ったのかな?」

    板野「へぇ」

    指原「あ!」

    板野「?何?」

    747 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:13:57.15 ID:61U0jH2U0
    指原「そういえばそれ、もともとは横山が懲罰房の中で拾ったんですよ」

    大島「え?懲罰房の中でぷっちょ食べた人いるの?すごくない?」

    秋元「さすがに懲罰房の中でそんな余裕はないよね」

    仲俣「はい」

    小嶋「えー?誰だろう気になるー」

    小嶋が間延びした声を上げた瞬間だった。

    板野「まさか…」

    そして板野は、小嶋の持っている種子を見つめる。

    ――どうして今まで気付かなかったんだろう…。

    750 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 15:20:05.76 ID:bz+qZL1eO
    板野の頭の中に、これまでの記憶が蘇る。
    監禁初日から今日までのこと。
    そう、よく考えてみれば、初日からあの人の行動はおかしかった。
    そして監禁生活の最初の頃、元気のなかった仲川が、ある時急に明るさを取り戻した。

    ――今まであたしが目にしたこと、聞いたこと…。

    1つの事柄だけを見ているうちは、真実に気付くことはできない。
    すべてを重ね合わせて考えた時、それはようやく形となって現れる。
    そう、これまで起こった出来事は、ほんの些細なことまですべて無駄ではないのだ。
    それらはすべて、板野に重大なヒントを与えてくれていたのだった。
    懲罰房のシステム、耳にダメージを受ける囚人達、看守に低周波が流れる条件、島田達が起こした脱獄劇、第7監房の壁の向こうにある、洗濯用の管――。

    板野「あ、あたしちょっと行ってくる!」

    板野はそう言うが早いか、監房を飛び出した。

    高橋「あ、待ってともちん、どこ行くの?」

    高橋の声さえ、今の板野には届かない。
    板野はある人物に会うため、全速力で走った。

    751 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 15:21:44.15 ID:bz+qZL1eO
    第1監房――。

    岩佐「あ、ともちんさん!」

    板野が顔を出すと、岩佐が嬉しそうに立ち上がった。

    岩佐「どうしたんですか?」

    笑顔で尋ねる岩佐を無視して、板野はある人物の前に向かう。

    仲川「ともちんだー!」

    仲川は鈴木の膝の上に座り、はしゃぎ声を上げた。

    752 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 15:23:33.35 ID:bz+qZL1eO
    板野「はるごん…なんか靴、汚れてるよ」

    仲川「あ、ほんとだ」

    鈴木紫「あ、こっち座りますか?」

    鈴木が気を遣い、ベッドを指し示した。
    しかし今の板野の耳に、鈴木の声は入らない。

    板野「……」

    鈴木紫「?」

    仲川「ともちんどうしたのー?怖い顔して」

    仲川が尋ねる。
    板野は一度唾を呑むと、ゆっくりと口を開いた。

    板野「ねぇはるごん?はるごんは…一体どこから外に出てるの?」

    754 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:28:16.10 ID:Yz3CTBYj0
    はるごおおおおん!!

    755 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:34:34.65 ID:mDXh5VIQO
    じらさないでくれ!

    757 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:36:16.92 ID:/yrini2q0
    うおおおおおおおおおおおおおおおおおお

    759 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:39:50.05 ID:9bqE1a1P0
    うおおおぉぉぉ!!! また新しい展開!!!

    761 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 15:46:55.18 ID:/yrini2q0
    このタイミングで焦らすなんてやりおる

    764 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:51:55.53 ID:61U0jH2U0
    《20日目》

    篠田「なんか嫌な予感がする…」

    看守の部屋で、篠田はむっつりとソファに座り、腕組みをしながら言った。

    前田「?」

    前田が不思議そうに首をかしげ、篠田の言葉を待つ。

    峯岸「なぁに?それ…」

    待ちきれなくなった峯岸が問いかけると、篠田は少し苛立った様子で説明した。

    篠田「勘…かな?なんだかすごく嫌な予感がするんだよ。もしかしたら、何か悪いことが起きているかもしれない」

    峯岸「悪いことって?」

    篠田「囚人が脱獄するってこと」

    前田「そんなの起きたらまた低周波が流されちゃうよー」

    峯岸「でも今のところなんともないし、麻里子の考えすぎじゃない?」

    765 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:52:56.90 ID:61U0jH2U0
    篠田「うん、でも一応確かめておいたほうがいいと思う。行こう」

    篠田はそう言うと、立ち上がった。
    ドアのほうへ歩いていく。

    前田「ちょっと待って、行くって麻里子、どこへ?」

    前田がちょこまかと追いかける。

    峯岸「また一昨日みたいに点呼取るの?結局あれも麻里子の考えすぎで、実際は何もなかったじゃん」

    峯岸は不満げに口を尖らせた。
    それでもやはり置いてけぼりをくらうのが嫌なのか、後ろをついてくる。

    篠田「ううん、違うよ。行くのは洗濯部屋」

    前田「なんでー?何かあるの?」

    篠田「うん、ちょっとね…」

    前田は篠田の意味深な発言に不安を覚えながらも、一緒に看守の部屋を後にした。
    3人が出て行くのを、柏木は無言で見送っている。

    767 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:57:08.67 ID:61U0jH2U0
    洗濯部屋――。

    前田「中に何かあるの?」

    洗濯部屋の前まで来ると、前田はもう一度篠田に問いかけた。

    篠田「うん、たぶん。あっちゃん、中を確認してみて」

    前田「?わかった」

    前田は状況を掴めぬまま、言われた通りドアノブに手をかける。
    しかし――。

    前田「あれ?開かないよ…」

    ドアノブが回らない。
    前田は焦ったようにドアを押したり引いたりしてみる。
    だが、ドアはびくともしなかった。

    峯岸「代わって、あたしがやってみる」

    前田を押しのけ、峯岸が前に出る。
    しかし同じことをしてみても、ドアが開く気配はない。

    峯岸「鍵がかかってるのかな?」

    峯岸はすぐに諦め、困ったように前田と篠田の顔を覗き込んだ。
    その時だった。

    768 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 15:58:33.00 ID:61U0jH2U0
    大島「早くしてよ才加」

    秋元「ちょっ、焦らせないでよ」

    板野「でも早くしないと看守に見つかっちゃうんだけど」

    高橋「あたしも手伝うから…」

    ドアの向こうから、4人の声が洩れ聞こえてくる。

    前田「なんで…?」

    囚人は洗濯部屋に入れないはずだ。
    しかし中からは4人の声がする。

    ――一体何が起きてるの…?

    そこで前田は気がついた。
    鍵をかけたのは、4人かもしれない。
    どうやって入ったのかわからないが、鍵を閉めて中でこそこそ話しているということは――。

    前田「脱獄しようとしてる?」

    前田が呟いたまさにその瞬間、5人目の声が耳に届いた。

    小嶋「ねぇー?やっぱり脱獄なんて無理なんじゃない?」

    小嶋の声だ。

    769 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:00:44.49 ID:61U0jH2U0
    前田「なんでにゃんにゃん…脱獄って?」

    峯岸「たかみなと優子、それにともちんと才加もいる…!」

    前田「そんな…駄目だよ…ねぇみんな、ここを開けて!」

    前田はすぐにドアへ飛びつき、激しく叩いた。
    遅れて峯岸も、前田と同じ行動をする。
    しかし、いくら呼びかけても、5人は答えない。

    前田「どうしよう…脱獄するって言ってたみたいだけど…」

    困り果てた前田は、助けを求めるように篠田を見上げた。
    篠田はすでに、鍵束を手にしている。

    篠田「開けよう。すぐに捕まえなきゃ」

    篠田は素早く鍵を鍵穴に差し込んだ。
    カチャリと小さな音が、開錠を知らせる。

    篠田「そこまでだよ!」

    篠田は声を張り上げながら、勢い良くドアを開いた。

    前田「たかみなー?」

    前田もその後ろから部屋の中へ駆け込む。

    770 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:02:07.28 ID:61U0jH2U0
    前田「……」

    しかし、そこに5人の姿はなかった。

    峯岸「いない…。でも確かに声は聞こえたのに…」

    峯岸がきょろきょろと部屋の中を見回す。

    篠田「……」

    篠田はまっすぐに洗濯機に近づくと、屈みこんでその周辺を探った。
    そして、ある物を手にして立ち上がる。

    前田「それは?」

    篠田「ICレコーダーだよ」

    篠田が再生ボタンを押すと、先ほどの5人の音声が流れた。

    峯岸「これって…どういうこと?」

    峯岸が頬を引きつらせる。
    わけがわからなかった。
    どうしてここにそんなものがあるのだろう。
    何のために音声を流したのだろう。

    篠田「…嵌められた…っ!」

    いまいち状況が読みこめない前田と峯岸を前に、篠田はくやしそうに唇を噛んだ。

    前田「?」

    篠田「嵌められたんだよ、あたし達は、みなみ達に」

    771 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:03:21.20 ID:61U0jH2U0
    前田「たかみなが?なんで?」

    篠田「決まってるじゃん、この隙に脱獄するためだよ!急がなきゃ、本気で逃げられる…!」

    篠田がそう言った瞬間、前田は苦しげに顔を歪ませ、その場に崩れ落ちた。

    前田「…痛っ…。そう…だね…本当にみんなが逃げたのだとしたら、早く捕まえないと…」

    だけど、低周波の痛みで体が思うように動かない。
    隣で峯岸も苦しそうに息を吐いている。

    篠田「行かなきゃ」

    篠田は険しい表情で、走り出した。
    残された2人は、尚も痛みにのたうち回る。

    前田「お願い…麻里子…みんなを…捕まえて…」

    その時、前田の肩を誰かが叩いた。

    前田「…?」

    振り返ると、そこにはよく見知った顔が並んでいた。
    中の1人が、やはり痛みに耐えた表情で、一歩進み出る。
    そして一言、「ついて来て」と言う。

    772 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:03:43.48 ID:bz+qZL1eO
    第7監房――。

    島崎「……」

    島崎は落ち着かない様子で、先ほどから立ったり座ったりを繰り返している。

    指原「どうしたの?ぱるる…。そんなにそわそわして」

    指原が尋ねた。

    島崎「あ、たかみなさん達、うまく脱獄出来たかなーって気になって」

    指原「そうだよね、心配だよね。でも今度こそうまくいくよ。だって作戦は完璧だもん」

    島崎「あ、そうですよね」

    指原「でもなんで指原とぱるるは居残りなんだろう?そりゃ大人数で逃げたら目立つっていうのはわかるけどさ」

    島崎「やっぱりわたしがぽんこつだからでしょうか…」

    島崎は指原の言葉を聞き、悲しげにうつむいた。
    その時、遠くからバタバタと走る足音が近づいてきた。

    指原「ん?」

    773 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:06:21.25 ID:bz+qZL1eO
    篠田「ぱるるいる?」

    そうして監房に飛び込んできたのは、篠田だった。

    島崎「篠田さん…」

    島崎は子猫のような顔で、おっとりと立ち上がる。

    島崎「どうしたんですか?」

    それから篠田の様子に気付き、表情を曇らせた。

    篠田「聞いた話と違うんだよ、どういことだか説明して」

    島崎「え?でも間違ってはいないはずですけど…」

    おかしなやりとりを始めた篠田と島崎を、指原は驚愕の表情で見つめた。

    ――本当だ、ともちんさんの言ってたこと…。

    774 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:09:12.24 ID:bz+qZL1eO
    一方その頃、米沢は――。

    米沢「大丈夫かな…」

    米沢は天を仰ぎ、呟いた。
    今頃高橋や板野達は脱獄を始めているだろう。
    結局、自分は何かの役に立つことはできたのだろうか。
    みんなはちゃんと逃げることができるだろうか。
    緊張と不安で、心臓が早鐘を打つ。

    河西「米ちゃん?」

    そんな米沢を、河西は心配そうに見つめた。

    竹内「どうかしたんですか?」

    竹内の手には、なぜかローソクが握られていた。

    米沢「え?ううん、なんでもないの」

    米沢は慌てて笑顔を作り、誤魔化した。
    しかし河西の表情を変わらない。
    それどころか、さっきよりなんとなく悲しそうな顔になっている。

    河西「もういいよ、米ちゃん。隠さないでよ…」

    米沢「…え?」

    776 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:11:15.74 ID:bz+qZL1eO
    河西「あたし、ずっと前から気付いてたよ。配膳の時、米ちゃんよく優子やともちんと何かこそこそ話してたよね?あれって…あたしよくわかんないけど、脱獄…のことだったんでしょ?急に厨房の模様替えをしたのも、何か関係があるんでしょ?」

    米沢「ともーみちゃん…」

    米沢は河西の言葉に脱力し、肩を落とした。

    ――知ってたの?なんで…?

    ふと気付くと、竹内も真剣な眼差しで米沢を見ている。

    米沢「まさか…美宥ちゃんも?」

    竹内「はい」

    竹内が頷いた。

    竹内「気付いてました」

    米沢「そんな…。なんで今更そんなこと…」

    米沢の疑問に、河西が答える。

    778 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:13:54.13 ID:bz+qZL1eO
    河西「さっき隣が騒がしかった。看守の子に低周波が流されてるみたいだった。あれってつまり、今現在、誰かが脱獄をしてるからじゃないかな?そうだとしたらもう、あたし達も黙ってられないよ。全力でその脱獄をサポートする!」

    河西が声質に似合わぬ強い口調でそう言うと、竹内も同意するように目で合図した。

    竹内「美宥達にもできることは必ずあるはずです。そのために美宥は、河西さんとずっと相談してきたんですから」

    米沢「美宥ちゃん…。そこまでしてくれてたなんて…」

    米沢は頭が下がる思いで、ちょっと頼もしくなった後輩の顔を見つめた。

    米沢「ごめんね、2人に秘密にしようとしてたわけじゃないんだけど…もしバレた時のことを考えたら、危険な目に遭わせたくなくて…」

    河西「わかってるよ。米ちゃんは、あたしや美宥ちゃん…みんなのために脱獄に協力してたんだよね?」

    米沢「……」

    779 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:15:35.56 ID:bz+qZL1eO
    河西「でももう、あたし、黙ってみんなに助けてもらうのは嫌なの。自分もみんなの役に立ちたいの。そのために…」

    河西が目配せをすると、竹内が持っていたローソクを高く掲げる。

    竹内「行きましょう。看守のみんながいるところに…」

    米沢「え?」

    状況が呑みこめていない米沢を引っ張って、河西と竹内は部屋を出る。
    とにかく早急に看守達と合流しなくては…。

    780 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:17:44.34 ID:bz+qZL1eO
    一方その頃、前田は――。

    前田「助かったよ、ありがとー」

    前田は腕時計を擦りながら、笑顔を浮かべた。
    もう低周波の痛みは襲ってこない。

    平嶋「良かった、みんな何事もなくて」

    平嶋は前田の笑顔を受け、ほっと一息ついた。

    前田「でも、なんでなっちゃんはここが安全だってわかったの?だってここ…」

    平嶋「懲罰房…だもんね。不思議だよね」

    平嶋がいたずらっぽい笑顔を浮かべ、頷く。
    洗濯部屋の前で脱獄を知り、低周波に襲われた前田と峯岸は、平嶋と柏木、梅田に声をかけられた。
    3人に誘導されるまま懲罰房の中に入ったところで、なぜか低周波が止まった。
    懲罰房の中には、すでに看守達が顔をそろえていた。

    781 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:20:12.69 ID:bz+qZL1eO
    峯岸「ほんと低周波が流されないのは嬉しいけど、なんでこの中だけ安全だってわかったの?」

    平嶋「あたしもこれに気付いたのは偶然なの。懲罰房の前でともちんに遭遇したことがあってね、でもともちんは囚人だから、懲罰房には近づいちゃいけないことになってるでしょ?」

    平嶋「だからやっぱりあたしは、低周波に襲われることになっちゃったんだけど、その時なぜかあたし無我夢中で、懲罰房の中に飛び込んじゃったんだよね…」

    前田「うん…」

    平嶋「そうしたら不思議なんだけど、低周波が止まったの。まだそこにともちんがいるのにだよ?おかしいでしょ?でもそれで気付いた。もしかしたら懲罰房の中では、低周波が遮断されてしまうんじゃないかって…」

    峯岸「すごいなっちゃん!大発見じゃん!」

    大げさに賞賛する峯岸に、平嶋は照れ笑いを浮かべた。

    782 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:23:48.89 ID:bz+qZL1eO
    前田「でも…たかみな達が捕まるまで、あたし達はここに避難してなきゃいけないの?」

    平嶋「うん、低周波に襲われないためにはそれしかないね」

    平嶋はそこで現実に引き戻され、表情を暗くする。

    前田「だけど麻里子しかたかみな達を追ってないよ?麻里子1人で、全員捕まえられるのかな?」

    峯岸「そうだよねぇ…」

    平嶋「え?麻里ちゃん低周波痛くないの?」

    前田「あ、そういえばそうだねー。どうしてだろう?」

    前田はそこで気がついたように、首をかしげた。

    平嶋「もしかして麻里ちゃんだけ低周波流されてなかったりしてー」

    平嶋が冗談めかしてそう言うと、前田は鼻に皺を寄せて笑った。

    前田「それはないよー。そんなのずるいじゃん」

    平嶋「だよねー」

    783 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:27:03.96 ID:bz+qZL1eO
    前田「それよりこれから先あたし達はどうすればいいか話し合わないとじゃない?」

    平嶋「みんなに集合かける?こういうのってみぃちゃんがやったほうがいいんじゃない?ねぇみぃちゃん?……みぃちゃん…?」

    平嶋が振り返ると、峯岸は難しい顔をして考え込んでいた。

    峯岸「なんで麻里子は洗濯部屋の鍵なんて持ってたんだろう…。看守が持たされているのは監房の鍵だけなのに…」

    前田「みぃちゃんどうかしたのー?」

    前田が問いかける。
    すると峯岸はハッと我に返り、不思議そうな顔をする2人の同期を見つめた。

    峯岸「もしかした麻里子には本当に、低周波が流されていないのかもしれない…」

    784 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:28:05.98 ID:61U0jH2U0
    一方その頃、第7監房では――。

    あんぐりと口を開け、目を見張る指原に、篠田は気がついた。
    キッと睨むと、指原に近づく。

    篠田「その顔…まさかさしこも1枚噛んでるんじゃないの?」

    篠田の視線に射抜かれ、指原はおどおどと身を縮めた。
    しかし、ここで負けては駄目なのだ。
    今頃、高橋や板野達はみんなのために頑張ってくれている。
    だったら自分も、ちゃんと役目を果たさなければ――。

    指原「聞きたいですか?」

    指原は精一杯余裕の顔を作り、篠田に問いかけた。
    予想通り、篠田は指原の挑発に乗ってくる。

    ――ここでなるべく話を引き伸ばして、時間を稼がなきゃ…。

    786 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:28:50.35 ID:61U0jH2U0
    指原「この監禁生活を企てたのは…篠田さん…ですよね?」

    指原はまず最初に核心をついた。
    篠田はもうすっかり諦めたようで、すんなりそれを認める。

    篠田「そうだよ。でも…なんでわかったの?」

    所詮相手は指原。
    篠田の態度には余裕が窺える。
    一方指原は精一杯ない胸を張っているが、弱腰なのは明らかだ。

    指原「あ、あの、別にこれから話すことは指原の推理じゃないんです。全部…ともちんさんが考えたことで…」

    篠田「ともちんが?」

    篠田は意外そうに、唇の端を上げた。

    指原「はい。ところで篠田さん…その、低周波、痛くないんですか?看守のみんなには今頃低周波が流れてるんですよね?なのにどうして篠田さんは…?」

    指原はそう言って、不思議そうに篠田の腕時計を見た。

    篠田「ああ、これ?」

    篠田は指原の視線に気付き、腕時計を外してみせる。

    指原「え?外れるんですか?」

    788 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:31:00.99 ID:61U0jH2U0
    篠田「そう。あたしのはダミーだからね。これでわかったとおり、あたしの腕時計から低周波は流れていない」

    指原「やっぱり…そうだったんですか…」

    篠田「?やっぱりって?いつから気付いてたの?」

    指原「え?あぁ指原もともちんさんから話を聞いて…でも、実際に篠田さんがここへ来るまでは半信半疑でした。でも、これで納得できました。ありがとうございます」

    指原は早口で説明すると、いつもの癖でつい礼を口にした。

    篠田「?」

    指原「ともちんさん言ってました。看守は低周波を流されている時、手に力を入れることも困難な状態に追い込まれているって。だけど…ほら、ぱるる達がトイレの窓から脱獄しようとした時あったじゃないですか?」

    指原はそう言うと、ちらりと島崎を見た。
    島崎は呆然とした表情で座りこんでいる。

    指原「あの時、看守は低周波を流され、ぱるる達に早く監房に戻るよう促しました。だけど、抵抗するぱるる達はその場を動かなかった。無理に引っ張って監房に連れて行こうにも、看守はみんな低周波で手に力が入らない」

    指原「そんな中、篠田さんは…篠田さんだけは…動けてましたよね?」

    指原が問いかけると、篠田は忌々しげに睨み返してきた。
    しかし指原は必死で自分を奮い立たせ、説明を続ける。

    789 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:32:22.91 ID:61U0jH2U0
    指原「あの時、看守は低周波を流され、ぱるる達に早く監房に戻るよう促しました。だけど、抵抗するぱるる達はその場を動かなかった。無理に引っ張って監房に連れて行こうにも、看守はみんな低周波で手に力が入らない」

    指原「そんな中、篠田さんは…篠田さんだけは…動けてましたよね?」

    指原が問いかけると、篠田は忌々しげに睨み返してきた。
    しかし指原は必死で自分を奮い立たせ、説明を続ける。

    指原「そう、低周波で手に力が入らない状態のはずなのに、篠田さんはぱるる達のもとまで行き、島ちゃんの服を引っ張っることができた」

    指原「なんで篠田さんだけあんなことができたんでしょう?ともちんさんはあの時の光景を思い出し、篠田さんへの疑惑を深めたんです」

    篠田「何それ…あたしあの時以外は特におかしなことなんてしなかったと思うけど?」

    指原「覚えてませんか?初日に囚人と看守を分けるためのくじ引きを行った時のこと。あの時、篠田さんはくじ引きで看守になりました。だけどよく思い出してみると、篠田さんは実際にくじ引きなんて引いてないんですよね?」

    指原「最後に看守の制服が1つ余っていたから、必然的に最後までくじを引いていない篠田さんは、看守ということになる。だからわざわざくじ引きなんて引く必要はない」

    篠田「……」

    790 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:34:39.05 ID:61U0jH2U0
    指原「篠田さんは、自分が看守になるため、わざと最後までくじ引きを引かなかったんじゃないですか?たぶん、あのくじ引きのボックスには、最初から看守のくじだけ1枚少なく用意されていたんです」

    指原「そうすれば、最後までくじを引かなかった人は、必ず看守になれる。だけど、そんな真似どうして篠田さんに出来たのか?それは…そもそもくじ引きを用意して、この監禁生活を計画したのが篠田さん本人だったからです」

    指原はそこまで言うと、緊張から解かれたようにほっと息を吐いた。
    だけど、まだ自分の役目は残っている。
    何もできない自分だけど、口だけは達者だ。
    板野の頼まれた謎解き――と称した時間稼ぎを必ず成功させなければ…。

    篠田「で?言いたいのはそれだけ?あたしがすべての黒幕だってこと?残念だけど…その推理はちょっと乱暴すぎない?もしかしたらあたしは誰かに脅され、仕方なくみんなをここに監禁したのかもしれない」

    篠田「あたしは真犯人に犯行を手伝わされていただけってことも考えられるでしょ?。じゃなかったから、大切なメンバーをこんなところに閉じ込めたりしないよ」

    指原「いえいえ、篠田さんが黒幕に間違いないんです」

    指原はそこで、大きく首を振った。

    指原「篠田さんが誰かに脅されて仕方なく犯行を行ったなんて考えられないんですよ。むしろ積極的に駒を使い、この監禁生活を自分の思い通りになるよう動かしていたんです。篠田さんの駒…ここにいるぱるるを使って」

    指原はそう言うと、島崎へ視線を向けた。
    指原に睨まれた島崎は、小刻みに震えながら、顔を青くしている。

    791 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:36:18.49 ID:61U0jH2U0
    島崎「あ…あたし…ですか?そんな…どうして…?」

    指原「ぱるるの裏切りに気付かせてくれたのは…この紙だよ」

    篠田「それ…ぷっちょの包み紙じゃん」

    指原「この紙、前に横山が拾ったものなんです」

    篠田「それがどうかしたの?ぷっちょなんてメンバーなら誰でも食べるじゃん」

    指原「この紙が落ちていた場所が問題なんですよ」

    篠田「え?」

    指原「実は横山が拾ったこの包み紙、懲罰房の中に落ちていたんです」

    島崎「……」

    指原「てことは誰かが懲罰房の中でぷっちょを食べていたってことになりますよね?でもそれって、ものすごく神経図太くないですか?指原だったら絶対無理ですそんなこと」

    指原「だって大音量で音楽を聴かされ気が狂いそうな上、監房の中は暗闇ですよ?めっちゃ怖かったですよー懲罰房の中」

    指原「だけど逆に考えれば、懲罰房の中にいても、音楽がなくて電気が点いていれば、何も怖いことなんてないですよね。そりゃ他の人と会話できないのは心細いですけど、それだったら指原でもぷっちょを食べる余裕くらいはあるかなーと思います」

    篠田「何が言いたいの?さしこ…」

    792 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:36:29.38 ID:Yz3CTBYj0
    予想外だった
    面白すぎる

    793 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:38:34.49 ID:61U0jH2U0
    指原「だから、懲罰房の中に入れられて、恐怖を味わっているふりをしながら、実は中でのんびりぷっちょを食べていた裏切り者がいるってことですよ。そしてそれは、篠田さんの駒であり従順な手先…ぱるるです」

    島崎「そんな…わたしそんなことしていません」

    指原「ううん、指原は懲罰房の扉の下から明かりが洩れているのを2回目撃してる。ほらここ、懲罰房の扉がよく見えるでしょ?」

    島崎「……」

    指原「1度目はもっちぃも懲罰房に入れられた時。2度目は梅ちゃんも入れられてた。だから指原は、看守だけ特別に懲罰房の中でも明かりを点けてもらっているんだと勘違いしてた」

    指原「だけど、ともちんさんから聞いたんです。もっちぃは暗い懲罰房の中で足をぶつけて、痣を作ってるって。おかしくないですか?もっちぃが真っ暗な懲罰房の中にいたのなら、どうして扉の下から明かりが洩れていたんでしょう?」

    指原「誰が明かりの点いた懲罰房の中にいたんでしょう?もっちぃと同じ日に懲罰房の中に入っていたのは…ぱるる」

    島崎「ひっ…」

    島崎は、指原の告白に小さく悲鳴を洩らした。

    794 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:39:19.82 ID:/yrini2q0
    まりこが黒幕まではわからんかった

    795 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:39:52.69 ID:H/12Inhz0
    篠田、妙に監禁にノリ気だと思ったら…

    796 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:40:30.09 ID:61U0jH2U0
    指原「梅ちゃんが懲罰房の中に入れられたのと同じ日に、懲罰房の中にいたのは島ちゃんとレモンちゃん、そして…やっぱりぱるるです。状況が、ぱるるを裏切り者だと証明しているんですよ」

    指原「それにぱるるは懲罰房から解放された直後、ハンカチを探してあげようとした優子ちゃんをすぐに制止しました。耳をやられているはずなのに、なぜか即座に優子ちゃんの発した言葉に反応できたんです。おかしくないですか?」

    指原「どうしてぱるるは懲罰房の中で耳をやられなかったのか。だからともちんさんは昨日、あえてぱるるにだけ偽の脱獄計画を話しました。洗濯部屋から逃げるってことにしたんです」

    指原「そして、それがまさか嘘だとは思いもしなかったぱるるは、そのまま篠田さんに密告しました。で、篠田さんはまんまと罠に嵌り、洗濯部屋で優子ちゃん達の音声を聞かされたはずです」

    指原「ぱるるに偽の情報を掴まされたと悟った篠田さんは、真実を問い質そうとぱるるの元を訪れた。実際はもう、ともちんさん達は他の場所から脱獄しています」

    指原が一気に言うと、島崎は観念したのか、その場に崩れ落ちた。

    797 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:41:57.77 ID:61U0jH2U0
    島崎「ごめんなさいごめんなさい…だって篠田が…あ、間違えました篠田さんです。呼び捨てじゃないです」

    篠田「ちょっ、今はそんなこといいから」

    島崎「はい、篠田さんが…わたしずっと篠田さんに憧れてて…少しでも近づきたくて…。篠田さんからこの計画を打ち明けられた時、従えば必ず篠田さんと肩を並べて、堂々と新曲を歌うことができると…」

    指原「え?何何?なんの話?」

    篠田「ぱるる、その先は黙って」

    指原「へ?」

    島崎「ごめんなさい。洗濯部屋の穴を塞いだのもわたしなんです。指原さんが寝ているうちにここから下へ降りて、こっそり壁を塗り直したんです…」

    指原「……うん…」

    島崎「だって皆さんが脱獄を成功させちゃったら、篠田さんに怒られると思って。なんとか阻止しなきゃってわたし必死で…」

    指原「…で、篠田さん、どうしてこんなことしたんですか?何が目的なんですか?」

    指原は泣きじゃくる島崎から目を離し、篠田に尋ねた。

    篠田「…聞きたい?」

    篠田は挑発的な目で指原を見る。

    804 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:48:23.78 ID:bz+qZL1eO
    指原「はい。教えてください」

    篠田「…秘密。でもさしこが、みんながどこから逃げたのか教えてくれたら、説明してあげてもいいけど?」

    篠田はそう言うと、試すように指原を見た。
    しかし指原には、何の迷いもない。

    指原「だったらいいです。聞かないです。その代わり指原も言いません」

    指原らしからぬきっぱりとした物言いに、篠田は一瞬たじろいた。
    だが、こういう時こそ先輩の威厳を見せるべきだ。

    篠田「教えて…さしこ…。教えなさい」

    篠田が低い声で言う。
    その間、島崎はひたすら泣きじゃくっていた。

    指原「駄目です」

    指原は怯まなかった。
    相変わらずびくびくと視線を泳がせ、涙ぐんでいるが、きつく下唇を噛み、必死にこらえようとしている。

    805 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:51:28.88 ID:bz+qZL1eO
    篠田「言って!」

    指原「だ、駄目ですよぉぉぉ」

    篠田「教えて!」

    指原「いやいや無理です無理です」

    篠田「くそっ…」

    篠田はさっさと見切りをつけ、指原を肩で押しのけると、監房を飛び出した。

    指原「あ、篠田さんどこ行くんですか?」

    慌てる指原の声を背中で聞いたが、無視だ。
    どうせこれ以上脅したって指原は口を割らない。
    簡単に口を割るとしたら…囚人の中では菊地くらいか?
    いや、あいつは馬鹿すぎる。
    それにそもそも脱獄計画のことさえ知らない可能性が高い。
    だとしたら考えられるのは…あいつだ!
    篠田は自分に懐いているメンバーの顔を思い浮かべ、ほくそ笑んだ。
    あいつならきっとあちこちの監房に顔を出している。
    それならもしかして脱獄計画についても、耳に入れているかもしれない。
    篠田はそう考え、足を速めた。

    808 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:54:53.43 ID:bz+qZL1eO
    指原「ぱるる…」

    一方その頃指原は、おろおろと島崎の周りを歩き回っている。

    指原「ぱるるもう…泣かないでよぉ」

    島崎のことを恨んでいないといったら嘘になる。
    あんなに頑張って掘った洗濯部屋の穴を、一晩で埋められてしまったのだ。
    普段ぽんこつな人ほど、覚醒した時のギャップは恐ろしい。
    だけど、指原はまだ、島崎を憎みきれないでいた。

    指原「ぱるる、指原別にぱるるのこと怒ってないよ?ともちんさん達…みんなも、ぱるるの裏切りに気付いたけど、それでぱるるのこと嫌いになったりはしてないよ?」

    島崎「…へ?そうなんですか?」

    島崎は驚いたように顔を上げ、真っ赤な目を指原に向けた。

    指原「だって指原だって誰かに憧れたら、その人のために何かしてあげたいって思うもん。普通のことだよ」

    810 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 16:57:10.06 ID:bz+qZL1eO
    指原「ぱるるの場合、それが度を過ぎてただけでしょ?これから色々なこと経験して、そういうこともうまく出来るようになるよ、きっと。誰だって間違いは犯すんだし」

    島崎「でもわたし…みなさんにひどいことしちゃった…」

    指原「でもそんなぱるるを利用して、偽の脱獄計画を篠田さんに密告させたのは指原達だし。これでもうおあいこだよ」

    島崎「指原さん…」

    指原「でも本気で悪いと思ってるなら、これからちょっと手伝ってくれる?」

    指原がそう訊くと、島崎の表情が幾分明るくなった。

    島崎「わたしでいいんですか?今からでも、みなさんのために手伝えることありますか?」

    指原「うん。ゆきりんから聞いてるの。なっちゃんが看守の低周波を一時的に遮断する方法を見つけたって。今からそこへ行って、あの腕時計が外せるかどうか、色々試してみよう」

    島崎「はい!」

    812 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 16:59:54.85 ID:61U0jH2U0
    一方その頃、懲罰房では――。

    河西「いたいた、こんなところに集まってたんだー」

    河西は懲罰房の中に看守達が集合しているのを見つけ、のんびりと話しかけた。

    平嶋「この中にいると低周波が遮断されるんだよ」

    平嶋が説明する。

    前田「あ!ともーみちゃんどうしたの?」

    河西に気がついた前田が駆け寄ってくる。

    河西「ちょっと思いついたことがあって、実験させてー」

    前田「?」

    河西はそう言うと、隣の竹内から素早くローソクを受け取り、火を点けた。

    前田「え?何ー?」

    前田はわけがわからず、ひきつった笑顔を張り付かせる。

    河西「いいからあっちゃん、じっとしてて…」

    河西はそう言うと、米沢に目で合図した。
    米沢が無言で動き、前田の腕を押さえつける。

    813 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:00:58.81 ID:61U0jH2U0
    前田「え?え?」

    峯岸「ちょっとともーみ何やってんの?危ないじゃん!」

    峯岸が口を挟むが、河西は一向に気にすることなく、ローソクの火を前田の腕時計に近づけた。

    前田「熱っ…!」

    前田が顔をしかめる。
    次の瞬間、腕時計のベルト部分がじわじわと収縮し、変形した。

    前田「何…これ?」

    驚く前田に、河西が言う。

    河西「あっちゃん、悪いけどちょっと、懲罰房から出てみてくれない?」

    前田「へ?」

    河西「いいから…」

    妙に真剣な河西の眼差しに面食らいながら、前田は言われたとおり、外へ出てみた。

    前田「……」

    河西「どう?あっちゃん…」

    河西が眉をひそめて問いかける。

    814 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:02:07.76 ID:61U0jH2U0
    峯岸「ちょっとあっちゃん、外出て大丈夫なの?」

    峯岸が焦ったように声をかけた。

    前田「…あれ?」

    前田は不思議そうに腕を振ったり、擦ったりしている。

    峯岸「あっちゃん?」

    前田「あれー?痛くないよー。何の反応もしない」

    前田はそう言うと、その場でうれしそうに飛び跳ねた。

    峯岸「どういうこと?ともーみ…」

    河西「外すことが無理なら、熱で腕時計の機能を破壊できないかと思ったの。良かった…成功したみたい…」

    河西は緊張の糸が切れたのか、へなへなとその場に座り込んだ。

    前田「ともーみちゃんありがとー」

    815 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:03:13.28 ID:61U0jH2U0
    それから河西と米沢、竹内の3人は手分けして、看守達に腕に付けられた腕時計を破壊していった。
    ようやく最後の1人の腕時計を破壊し終わった後、指原と島崎がやって来る。

    指原「なんだ…懲罰房に集まってたなんて考えもしなかったから…」

    島崎「あちこち探しちゃいましたよね…」

    島崎が息切れを起こしながら言う。

    前田「?」

    指原「あれ?前田さん低周波平気なんですか?」

    指原そこで、前田の平然とした様子に気がつき、驚きの声を上げる。
    ふと見れば、看守達は全員普通に立っている。
    どこも痛くなさそうだ。

    指原「どういうこと…」

    前田「ともーみ達が何とかしてくれたんだよー」

    前田のあっけらかんとした声に、指原と島崎は脱力した。

    島崎「そんな…また皆さんのお役に立てなかった…」

    とりわけ島崎は心底残念そうに、肩を落としている。
    そんな島崎の言葉に、前田が反応した。

    前田「ううん、まだやれることはあるよ…」

    816 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:04:18.56 ID:61U0jH2U0
    島崎「え?」

    島崎の顔を一瞥すると、前田はスッと真剣な表情になり、宙を睨んだ。

    ――あたしは今まで、重大な間違いを犯していた…。

    早く脱獄したみんなを探し、協力しなければ。

    ――みんなにはひどいことしちゃってたな…。許してくれるといいけど…。

    看守として、厳しい立場に出てしまった自分を、前田は反省した。
    あの時はまだ、それがみんなのためだと信じていた。
    でも…それは間違っていた。
    すべて篠田に仕組まれていたのだ。
    今ならわかる。
    ちょっと気付くのが遅れたけど、今からでもみんなのために戦おう。
    みんなと一緒に戦おう。
    絶対に脱獄を成功に導いてみせる…。
    前田は改めて心にそう誓った。

    前田「行こう。たかみな達を手助けしなくちゃ!」

    817 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 17:07:05.20 ID:bz+qZL1eO
    一方その頃、篠田は――。

    篠田「はるごん!」

    トイレから出て来たばかりの仲川を見つけ、走り寄る。
    篠田の剣幕に、仲川は反射的に逃げようとしてしまった。
    鬼ごっこかと勘違いしたのだ。

    仲川「なーに?麻里ちゃん怖い顔して」

    仲川はこんな時でも無邪気な笑顔で篠田にまとわりつく。

    仲川「何して遊ぶの?ねぇねぇ」

    仲川は篠田が自分と遊ぶために探しに来たのだと思っている。
    そんな仲川を、篠田はやきもきしながら落ち着かせた。
    仲川の両肩に手を置き、視線を合わせるため腰を折る。

    仲川「?」

    篠田の真剣な目に射抜かれ、仲川はぎょっとした表情を浮かべた。

    820 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 17:08:58.62 ID:bz+qZL1eO
    篠田「ともちん達が脱獄したの。はるごん、何か知ってない?」

    仲川「え?遥香は何も知らないよ」

    しかし、仲川の視線はわかりやすく泳いでいる。
    篠田は確信を得た。

    ――はるごんは絶対に何か知っている…。

    篠田「本当に何も知らないの?どこから逃げたとか、どうやって逃げたとか」

    篠田がここまでむきになるのには理由があった。
    どこから脱獄したかにより、捜索する方向を絞ることができる。
    建物の周りをぐるりと捜索していたのでは非効率だ。
    その間に脱獄者はどんどん遠くへ逃げてしまう。

    821 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 17:11:14.04 ID:bz+qZL1eO
    篠田「何か知ってて、隠してるんじゃないの?」

    仲川「本当に遥香は何も知らないんだよ。痛い麻里ちゃん、手を放してよ」

    篠田「嘘つくとはるごんも懲罰房に入ることになるよ」

    仲川「遥香嘘なんかついてないもん!変だよ麻里ちゃん…」

    篠田「正直に話してくれたら、はるごんだけ特別に好きなお菓子たくさん用意してあげる」

    仲川「お菓子?」

    仲川の目の色が変わった。

    篠田「そう…お菓子…食べたいだけあげるよ」

    仲川の心が揺れる。
    しかし、ここで屈するわけにはいかないことはわかっている。

    仲川「い、いらないよ遥香。お菓子なんかいらないもん!」

    822 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:11:19.59 ID:8pLrMTbZ0
    なんだ!
    なんなんだー


    すべてはどこから始まっているんだー


    825 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:13:38.82 ID:3T5VmM8N0
    >>822
    ワロタwww

    824 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 17:13:36.82 ID:bz+qZL1eO
    篠田「……」

    篠田はそこで、仲川の不審な動きに気がついた。
    先ほどから妙にある一点ばかりをちらちら見ているのだ。

    篠田「?」

    仲川の視線の先にあるのは、さっき出て来たばかりのトイレ。

    ――もしかして…。

    篠田は仲川から手を放すと、真っ直ぐトイレへ向かった。

    仲川「あ、トイレには何もないよ」

    すがりつく仲川を振り切り、トイレのドアを開ける。
    アンモニアの臭いが篠田の鼻をついた。

    ――そういえばこのトイレ、換気扇が壊れているんだった…。

    篠田「ん?換気扇?」

    826 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:15:34.96 ID:Yz3CTBYj0
    換気扇壊れてた事すっかり忘れてたわ

    827 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:15:51.23 ID:ElPlyWyC0
    なるほど~換気扇か

    828 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 17:16:04.52 ID:bz+qZL1eO
    篠田はほとんど確信を持って、換気扇に近づいた。
    見たところ、なんだか設置が甘いような気がする。
    壁から少し浮いてしまっているのだ。

    篠田「……」

    換気扇に手を伸ばす。
    少し揺すると、換気扇はそのままごっそり外れた。
    そして換気扇のあった場所には、空洞が残る。
    それはちょうど、人が通れるくらいの空洞。
    外の新鮮な空気が篠田の顔を撫ぜた。

    篠田「ここから逃げたのか…」

    篠田はそう言うと一気に駆け出し、広間を突っ切った。
    そして鍵束を取り出すと、外へと続く扉に差し込む。
    鍵を開け、飛び出した。
    間に合うか?
    いや、必ず間に合って見せる。
    脱獄者を全員捕まえるんだ――。

    829 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 17:18:38.04 ID:bz+qZL1eO
    一方その頃、板野達は――。

    板野「……」

    板野は走った。
    建物を出てからどのくらいの時間が経ったのか。
    指原はちゃんと時間稼ぎをしてくれているだろうか。
    そして、今頃きっと看守達は低周波に襲われてしまっているはずだ――。

    ――あたし達の脱獄は、誰も幸せにしないのかもしれない…。

    何もない草原をひたすら走りながら、板野は次第に不安を募らせた。
    本当はおとなしく、解放されるまであの中で過ごしていたほうが良かったのでは。
    みんなのためとはいえ、自分達が脱獄したことで、看守を苦しめる結果になったのは間違いない。

    ――ずっと走っているのに、人も建物も見えてこない…。

    変わらぬ風景が、さらに板野の不安を増長させる。

    831 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:20:05.25 ID:61U0jH2U0
    大島「みんな大丈夫?ちゃんとついてきてる?」

    先頭を走るのは大島だ。
    大島は時折背後を振り返りながら、メンバーを誘導する。
    だが、そんな大島にも行くあてがあるはずもなく、ただ当てずっぽうに走っているのだった。

    小嶋「えーん、ちょっと待ってよー。ちょっとだけ休憩しよ?ね?」

    ついに最後尾の小嶋の足が止まる。

    高橋「にゃんにゃん…」

    高橋も立ち止まり、小嶋の様子を確認すると、早足で近づいた。

    高橋「大丈夫?」

    小嶋「駄目…もう走れない…」

    板野「そんな…!もう少し頑張ってよ。なるべく早く人のいる場所に出て助けを呼ばないと…」

    小嶋「えー、そんなこと言ったって走れないものは無理」

    秋元「そんな簡単に無理とか言っちゃ駄目だろ?東京マラソンに比べたらこんな…」

    小嶋「知らないもん、そんなの」

    秋元「……」

    833 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:22:18.64 ID:9bqE1a1P0
    やっぱり小嶋さんwwwwwwwwww

    834 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:23:03.12 ID:SSz6MCJs0
    小嶋さん推しだけどこれは腹立つwwwwwwwwww

    836 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 17:23:54.94 ID:bz+qZL1eO
    絶えず走り続けた疲労が、ここへ来て爆発した。
    小嶋は不機嫌な表情になり、そっぽを向く。
    見かねた大島が提案した。

    大島「仕方ない…。みんな背を低くして、周囲から姿が確認できないくらい小さくなって、ここで少し休もう。だけど回復したらすぐに走るよ。いい?」

    小嶋「わかったー」

    板野「……」

    大島の案に喜ぶ小嶋が、その場に腰を下ろそうとする。
    その時、遠くからエンジン音が聞こえてきた。

    高橋「車だ!誰か通る!事情を話して乗せてもらおう。人のいる場所に連れて行ってもらうんだよ」

    高橋が気がつき、小さな体を精一杯伸ばすと、両手を振った。
    車はスピードを落とし、高橋の前で止まる。

    高橋「……え?」

    一瞬で、高橋の表情が強張った。

    837 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:24:06.92 ID:61U0jH2U0
    高橋「なんで…?」

    運転席のドアが開き、誰かが出て来た。
    その細くしなやかな体付きは――篠田だ…!

    板野「車使うなんてずるい!」

    これはさすがに想定外だった。
    そして板野は、篠田の姿を見て、悲しげに肩を落とす。

    板野「やっぱり黒幕は…麻里子だったんだね…」

    予期していたことだった。
    だから指原にすべてを話した。
    だけど板野は心のどこかにまだ、篠田を信じたいという気持ちが残っていたのだ。
    しかし目の前で不敵な笑みを浮かべる本人を見て、その希望は無残にも打ち砕かれた。

    ――どうして…麻里子…。

    落ち込む板野達に、篠田は悠然と腕組みをしながら近づいてきた。

    839 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:25:56.42 ID:61U0jH2U0
    篠田「もう色々、わかってるみたいだね。だけど、それが何?わかったからって、何?これまでのルールは変わらないよ?みんなはまた監房に戻って、囚人を続けるしかないんだよ」

    小嶋「えー?」

    大島「嫌だ…あそこには戻りたくない!なんでなの麻里子?麻里子が黒幕だというなら、あたしお願いする。どうかお願い、あたし達を…みんなをあそこから解放して!」

    大島は眉をハの字に曲げると、篠田を見つめた。
    しかしそんな大島の表情を見ても、篠田の態度は変わらない。

    篠田「それは無理なんだよ、残念だけど。さ、おとなしく監房に戻ろう。早くしないと、看守達がいい加減低周波でどうにかなっちゃうかも」

    篠田の脅しに、大島は言葉を詰まらせる。
    今や看守達全員が、人質に取られてるようなものだ。

    秋元「ひ、卑怯だぞそんなの!やるならフェアにやれよ!」

    たまらず秋元が叫んだ。
    しかし、秋元の手はぷるぷると震えている。

    ――怖いんだ…才加も…優子も…みんな、看守の子達が今頃どうなってるのか不安なんだ…。

    板野は秋元の姿を見つめ、それから高橋、大島と順番に目で追った。
    3人とも恐怖と不安に震え、そして、絶望しかかっている。
    このままだと脱獄を諦め、篠田の言うことを聞いてしまいそうだ。

    ――これで…終わりなの?せっかくここまで来たのに…。

    842 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:27:05.22 ID:61U0jH2U0
    その時ふと、視線の端に小嶋が映った。
    小嶋はこんな状況でも、まったく焦る様子がない。
    平然としている。
    板野はそんな小嶋の姿を見て、閃いた。

    ――陽菜ならどんな時もパニックを起こさない…そして麻里子は陽菜に弱い…。

    脱獄に失敗した時も、小嶋だけ懲罰房に入れられなかった。
    そしてなぜか小嶋は、看守の部屋まで柏木を呼びに行ったこともある。
    囚人は立ち入りを禁止されている看守の部屋に、なぜ小嶋は簡単に入ることができたのか。
    答えは簡単だ。
    篠田がうまく看守達を先導し、監禁生活の中で小嶋だけを守っていたからだ。

    板野「ごめん…陽菜…」

    板野はぼそりと呟くと、ポケットに手を入れた。

    小嶋「…え?」

    小嶋が聞き返したのとほぼ同時に、板野は米沢から預かっていた包丁を取り出し、小嶋へ向けた。
    追い詰められた焦りと、極限にまで達した緊張。
    板野の手が震える。
    前方で勝ち誇ったように腕を組むのは、予期せぬ人物――ほんの数日前までは仲間として疑いもしなかったメンバー。

    844 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:27:54.73 ID:61U0jH2U0
    篠田「もう諦めなよ。おとなしく監房に戻って」

    大島「そんな…」

    大島がハッと息を洩らした。
    彼女達は互いに視線を交じらせ、硬直している。
    小嶋の背後に立ち、板野は青ざめた顔をかつての仲間へと向けた。

    大島「どうして…やめてよ…」

    板野「ここで終わらせるわけには行かないの。ごめん陽菜…」

    小嶋「お願い…やめてともちん…」

    板野の手に握られた包丁。
    その刃先は、小嶋の喉下へと向けられている。

    ――こんなこと本当はしたくない…だけど…やらなきゃ駄目なの…。

    手にはじっとりと汗をかいている。
    板野はひそかに包丁を握り直すと、声を張り上げた。

    板野「陽菜がどうなってもいいの?!」

    もう一方の手で、小嶋の腕をぎゅっと掴む。
    そしてゆっくりと、刃先を喉元へと近づけていった。

    845 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:29:24.73 ID:ElPlyWyC0
    ぉおおおおおwwwwこれはwww

    840 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:26:14.58 ID:Ssmr/rs00
    だからこじはるに包丁突きつけたのね

    843 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:27:20.19 ID:Yz3CTBYj0
    繋がったね
    wktk

    847 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:30:17.72 ID:61U0jH2U0
    高橋「何考えてるのともちん!」

    高橋が厳しい声を上げる。
    しかし板野の握る包丁が気になって、その場から動くことができない。

    板野「陽菜を助けたかったら、おとなしく道を開けて!」

    そう言いながら、板野はこれまでのことを振り返っていた。

    ――どうしてこんなことになっちゃったんだろう…どうしてあたしは…陽菜に包丁を向けなきゃならないの…?

    建物の中にはまだ、前田や峯岸…看守達がいる。
    そして残してきてしまった囚人達。
    この計画を実行させようと、たくさんのメンバーの力を借りた。
    柏木と米沢、梅田は自分の立場が危うくなるのも厭わずに、協力してくれた。
    最後まで一緒に頑張ってくれていた渡辺、指原、仁藤、仲俣。
    なんだかんだ言って、やっぱり芯の通った石田の存在も大きい。
    横山のくれたヒント、詳しいことは何も聞かずに手を貸してくれた大家と亜美。
    まさか仲川が最後にして最大の助けになるとは、思ってもいなかった。
    それから…宮澤…。
    具合の悪い宮澤を建物の中に残してしまうことは、最後まで心残りだった。
    早くあんな生活から解放してあげたいと、切実に願う。
    やっぱりどんなときも、宮澤には笑顔でいてほしいのだ。

    ――そうだ、みんなのためにも、ここで諦めちゃ駄目だ…。

    板野は自分の心を鬼にして、小嶋へ包丁を向け続けた。
    板野のそんな気迫が伝わったのか、高橋達も無言で見守っている。
    そうしてしばらく、板野と篠田のにらみ合いが続いた。

    848 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:31:30.69 ID:61U0jH2U0
    篠田「……」

    先に折れたのは篠田だった。
    やはり小嶋の存在は絶大だ。

    篠田「わかったよ、手出しはしない。だから陽菜を放して」

    篠田はそう言うと、車のキーを投げてよこした。
    素早く大島がキャッチして、ポケットに仕舞う。

    篠田「これで文句はないでしょ?逃げたきゃさっさと逃げなよ」

    悔しげに唇を噛む篠田を見て、板野はサッと包丁を引っ込める。

    板野「ごめんね…」

    小嶋「?え?大丈夫」

    大島「よし行こう。麻里子はあたし達の姿が見えなくなるまで、そこから動かないで!いいね?」

    大島が走り出す。
    板野もその後を追おうとした。
    その時――。

    852 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 17:34:47.65 ID:bz+qZL1eO
    高橋「…やめ…て…」

    高橋の呻き声が耳に届く。

    板野「え…?」

    振り返ると、高橋はいつの間にか、すらりとした少女達に拘束されていた。

    秋元「おい…嘘だろ…」

    秋元が驚きの声を洩らす。

    大島「何やってんだよてめぇーら!たかみなに触るんじゃねぇ!」

    大島が怒りに目を血走らせる。
    しかし、少女達はにやにやと笑うばかりだ。
    少女達がそれほどまでに余裕なのは、やはりメンバーの柱である高橋を人質に取っていることが大きいのだろう。
    少女達はそれぞれ、小型のナイフを所持している。

    856 : ◆TNI/P5TIQU :2012/02/29(水) 17:39:15.20 ID:bz+qZL1eO
    板野「たかみな…!」

    篠田「…遅かったじゃん、みんな」

    板野が声を発した直後に、篠田が上機嫌にそう言った。

    板野「え?」

    ――もしやみんな…麻里子の仲間なの…?

    驚く板野を見て、篠田が説明する。

    篠田「あたしは黒幕じゃない。メンバーの監禁を計画したのは、この子達だよ」

    その時、にやにやと笑うばかりだった少女達の中の1人が、前に進み出た。

    857 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:40:23.07 ID:8pLrMTbZ0
    んんん黒幕ぅぅううううう

    860 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:40:54.64 ID:ElPlyWyC0
    ぇえええええええええええええ?w

    861 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:41:37.97 ID:ZKyacNCm0
    急展開や!!

    863 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:42:25.11 ID:jjJ4ZM4c0
    まじかよ…

    864 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:42:34.97 ID:Uix4HU0K0
    どうなる…

    869 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:45:55.03 ID:61U0jH2U0
    珠理奈「篠田さんは優しいからね。あたしの願いを叶えるため、進んでこの計画に協力してくれたんだよ」

    板野「珠理奈…」

    板野は呆然と、その見慣れた顔を凝視していた。

    玲奈「そういうことです。ごめんなさい…」

    珠理奈の隣で、玲奈が苦笑いを浮かべる。

    板野「玲奈ちゃんまで…それにみんな…SKEが黒幕だったの?」

    珠理奈「そうだよ?」

    珠理奈は当然といった顔で、口角をきゅっと上げた。

    大島「なんで…なんでそんなことするの?!」

    大島の悲痛な叫びが草原に響き渡る。
    高橋は相変わらず恐怖に顔を引きつらせ、少女達の腕を振りほどこうと必死にもがいていた。
    珠理奈がゆっくりと髪をかき上げながら宣言する。

    珠理奈「あたしはなぁ…AKBのセンター…取りに来たんだよ!」

    872 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:47:24.39 ID:9bqE1a1P0
    ここでSKE出て来るかー それは予想外出来なかったぞ

    873 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:47:40.12 ID:61U0jH2U0
    板野「……」

    玲奈「あ、あとあれも言っておいたほうがいいと思うよ」

    珠理奈「うん。それから目指すはSKEの天下統一!あんたらAKBをステージから引きずり落とした暁には、あたしらが晴れてそのステージで新曲を披露する!篠田さんと一緒にね!」

    玲奈「あ、でも新曲だけじゃなくて、これからはSKEの曲全部披露できると思うよ。だって…AKBさんはもうここから…出られないんだから…」

    玲奈はそう言うと、にっこり笑った。

    秋元「ちょっ、ふざけんじゃねぇぞ!」

    秋元がドスをきかせる。
    しかし珠理奈は怯むどこから、挑発的な目を向けてきた。

    珠理奈「…たかみなさんがどうなってもいいの…?」

    秋元「…ぐっ…」

    875 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:48:48.49 ID:61U0jH2U0

    珠理奈「これから監房に戻して、もっともっと精神的に追い詰めてやる。二度とステージに立てないくらい、ボロボロにしてやるから」

    玲奈「篠田さん、お願いします」

    玲奈が頭を下げる。
    篠田は真っ直ぐ大島に近寄ると、先ほど渡した車のキーを取り返そうとする。
    大島はそれに対し、必死に抵抗した。

    大島「どうせその車にあたし達乗せて、またあの中に連れ戻す気なんでしょ?絶対返さないからね!」

    篠田「でもこのままだと、みなみが危ないと思うよ」

    大島「…え?」

    大島はそこでふと我に返り、高橋を見る。
    あいかわらずナイフを向けられ、身動きの取れない高橋。
    その時、草の間から数人の人影が飛び出した。

    876 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:50:45.25 ID:61U0jH2U0
    内田「ターーッ!」

    佐藤亜「たかみなをいじめないで!えいっ!えいっ!」

    倉持「逆水平!んもぅ…あんまり悪いことしてると耳噛んじゃうぞっ!」

    内田が少女達の手に握られたナイフを次々と叩き落としていく。
    亜美菜が体当たりをして怯んだ隙に、倉持が見事な逆水平を決めた。

    板野「みんな…!」

    篠田「嘘?なんでここにいるの?低周波は…?」

    驚く篠田、そしてSKEの面々の前に、次々とメンバーが姿を現した。

    前田「ともーみちゃん達が腕時計壊してくれたの。これでもう低周波なんか怖くないよー。他の囚人の子達も、みんな監房から出してあげた」

    前田がはしゃぎ声を上げる。

    峯岸「やっぱり麻里子…それに珠理奈達まで…」

    峯岸の肩が、怒りと絶望に震える。
    その背後から、待ち望んだ顔が現れた。

    879 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:53:23.71 ID:61U0jH2U0
    宮澤「たかみな、早くこっちに!」

    宮澤はいつもの明るい表情に戻り、高橋を手招きしている。

    大島「佐江ちゃん!」

    高橋「声が戻ったんだ?」

    高橋が駆け寄りながら尋ねる。
    宮澤は大きく頷くと、両手でVサインを作って見せた。

    宮澤「もう平気。萌乃がこれまでのこと説明してくれて、もうあたしも落ち込んでられないと気付いたんだ。遅くなったけど、あたしもみんなと一緒に戦う」

    仁藤はそんな宮澤を支えるようにして、微笑んでいる。
    宮澤と和解できたことが心から嬉しいようだ。

    秋元「佐江…」

    秋元がふっと涙をこぼした。

    指原「ぱるるもいます!」

    指原が声を張り上げると、島崎がおずおずと前に進み出た。

    880 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:56:37.44 ID:61U0jH2U0
    島崎「あの…わたし…ごめんなさい…」

    阿部「え?なんでぱるるは謝ってるんですか?」

    大場「いいからあんたちょっと黙ってなよ」

    不安気に立ちすくむ島崎のもとへ、板野が駆け寄った。

    板野「あたしこそ、計画のことで罠に嵌めるような真似してごめんね」

    島崎「いえ…そんな…」

    大島「ねぇー?信じていいんだよね?ぱるるはもう、あたし達の仲間だよね?」

    島崎「はい!」

    大島の問いかけに、島崎は毅然とした表情で答えた。

    島崎「わたし、これからいっぱい頑張って、今までのぶん取り返します」

    島崎の目がスッとその色を変える。
    怯えが消え、冷静さをたたえている。
    指原はその変化に驚くと同時に、自分も負けてはいられないと猫背を直した。

    881 : ◆4zj.uHuFeyJ8 :2012/02/29(水) 17:57:51.83 ID:61U0jH2U0
    板野「……」

    板野はぐるりと集まったメンバー達を見回す。
    真剣な表情で頷く前田。
    すでに言いたいことがたまりすぎて、うずうずしている峯岸。
    意味もなく走り回り、体力をアピールする仲川。
    冷酷さをたたえ、ネズミのようになっている渡辺。
    料理係の3人は、手にフライパンを持ち、戦う準備は万端のようだ。
    みんな…板野達を信じてかけつけてくれた仲間達…。

    ――大丈夫、あたし達はやれる。今までどんな困難も、みんなで力を合わせて乗り越えてきたんだもん…。

    板野はすっと顔を上げると、真っ直ぐ相手を睨んだ。
    宣言する。

    板野「もう卑怯な真似はやめて、真っ向勝負といこうか。あたし達は…受けて立つよ」


    ―END―

    883 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 17:59:05.13 ID:8pLrMTbZ0
    おおおおおおお!!
    乙!最高だ!

    888 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:02:28.64 ID:SSz6MCJs0
    えええw シーズン2は?

    889 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:02:42.03 ID:ELFg/3Dz0
    おもしろかったー
    二章を見据えてのSKEなら納得

    890 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:02:50.16 ID:/yrini2qI
    SKEは2人だけか
    めっちゃ面白かったよ!!乙!!

    896 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:05:13.21 ID:8N9k3yzu0
    まさかのSKEだったか!

    ともあれ面白かった!
    乙でした。

    897 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 18:05:57.15 ID:9bqE1a1P0
    まさかの終わり!? 続きが気になるぞおおおぉぉぉ 第2章希望だあああぁぁぁ

    809 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/02/29(水) 16:55:53.38 ID:/eUIhdVc0
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       ,x彡        ミ{、{v、⌒ヽ、       __________
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    引用元:AKB板野「ここから…脱獄する…!」

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